アブドル・アルハズラット

アブドル・アルハズラット：クトゥルフ神話の影の著者

アブドル・アルハズラットは、ホラー小説作家H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話において、恐るべき禁書『ネクロノミコン』の著者として知られる架空の人物です。8世紀のアラビアを舞台に、詩人にして魔術師、あるいは狂人として描かれる彼の生涯は、謎と怪奇に満ち溢れています。

謎に包まれた生涯

ラヴクラフトの創作資料『ネクロノミコンの歴史』によると、アルハズラットはウマイヤ朝の時代にイエメンのサナアで生まれました。ムスリムではありましたが、イスラム教の教えには関心がなく、クトゥルフやヨグ・ソトースといった旧支配者を崇拝していたとされています。彼は、砂漠の廃墟で太古の人類より古い種族の秘密の年代記を発見したとされ、その言動から狂人として世間に認識されていました。

西暦730年頃にはシリアのダマスクスで『ネクロノミコン』の原典である『アル・アジフ』を執筆。その最期は、738年に路上で不可視の怪物に喰われたという恐ろしい伝説が残されています。『ネクロノミコン』という題名は、アラビア語の原典がギリシャ語に翻訳された際に付けられたもので、アルハズラット自身は関与していません。

ラヴクラフト作品における存在感

アルハズラットと『ネクロノミコン』は、1922年のラヴクラフト作品『無名都市』で初めて言及されました。その後、1922年の『魔犬』で両者の関連性が明確になり、1927年の『ネクロノミコンの歴史』でその設定が確立されました。

ラヴクラフトの死後、オーガスト・ダーレスを中心としたクトゥルフ神話研究者たちによって、アルハズラットはより詳細に描かれていきました。ダーレスの『永劫の探究』では、アルハズラットが邪神の眷属に誘拐され、無名都市で苦しめられた末に命を落としたという設定が追加されています。

また、他の作家たちもアルハズラットや『ネクロノミコン』を題材とした作品を創作し、クトゥルフ神話の世界観をさらに広げていきました。

名前と語源

ラヴクラフト自身によると、「アブドル・アルハズラット」という名前は、彼が5歳の頃にアラビアンナイトを読んでアラブ人になりたがった際に、大人の人物に名付けられたペンネームだったとのことです。「アブドル」はアラビア語で「アッラーのしもべ」を意味する一般的な男性名であり、「アルハズラット」はアラビア語の語彙と関連付けられるものの、厳密な意味は不明瞭です。言語学的な観点からは、アラビア語としては不正確な表現であるという指摘もあります。

類似キャラクターと影響

『ネクロノミコン』という禁書を執筆した魔道士という設定から、クトゥルフ神話にはアルハズラットに似たキャラクターが数多く登場します。CA・スミスによる「エイボンの書」の著者エイボンや、R・E・ハワードによる「無名祭祀書」の著者フォン・ユンツトなどがその例です。また、ラヴクラフト自身の分身とも捉えられるランドルフ・カーターやウォード・フィリップスも、アルハズラットと共通点を持つキャラクターと言えるでしょう。

結論

アブドル・アルハズラットは、クトゥルフ神話において欠かすことのできない存在です。彼の謎めいた生涯と、彼が著したという『ネクロノミコン』は、数々の作家にインスピレーションを与え、クトゥルフ神話の世界観を深く豊かに彩っています。彼の存在は、クトゥルフ神話の魅力の重要な一部であり続けていると言えるでしょう。

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