ネットワークオーディオ

ネットワークオーディオとは

ネットワークオーディオは、音楽を聴くための新しい形態であり、ネットワーク接続されたオーディオ機器を使用する概念です。これは、デジタル音声データを再生するために機器を接続する一つの方法であり、家庭内LANやインターネットを介してサーバー、プレーヤー、コントローラーを連携させて構築されます。

概要

ネットワークオーディオは、PC、タブレット、スマートフォンなどのネットワーク機器の普及に伴い、CDやSACDなどの物理メディアを使用せずに、リモートのデジタル音源を再生する手段として2000年代後半から広く利用されるようになりました。一般的には、PCやNASなどのPC関連機器、またはDLNA対応のオーディオ機器が使用されますが、Wi-Fiやモバイル通信を通じてスマートフォンやポータブルオーディオでも接続可能です。

PCオーディオと共通の機器が使われることも多いですが、通常の使用においては必ずしもPCが必須ではありません。この点がPCオーディオとの大きな違いと言えるでしょう。

歴史

前史

1988年、ソニーは初のワイヤレスウォークマンを発売し、その後、ワイヤレスでの本体操作を実現するモデルを開発しました。1990年代には、双方向リモコンユニットが登場し、本体の再生状況をリモコンのタッチパネルで確認できるようになりました。この頃から、コントローラーを独立させることで高音質化を図るという考え方が生まれてきました。

2000年代に入ると、iPodの登場により音楽ファイルの再生が一般的になりました。オーディオ業界は、ディスク再生やレコード再生が主流でしたが、iPodの登場を機に、有線LAN接続によるネットワーク機能を持つオーディオ機器や、PCとUSB接続するUSB-DACが登場し、UPnPが広く使われるようになりました。

さらに、複数のメーカーが協力してUPnPをベースとしたネットワーク規格「DLNA」が設立され、2006年にはコントローラーの概念を加えたDLNAバージョン1.5が発表され、ネットワークオーディオの原型が提案されました。

ネットワークオーディオの確立

2007年にLINNがKLIMAX DSを発売し、ほぼ同時期にiPhoneが登場したことで、コントローラーアプリを通じて本体を操作することが可能になりました。この結果、サーバー、プレーヤー、コントローラーという三要素が確立し、「ネットワークオーディオ」という言葉が一般的に使われるようになりました。

日本国内では、iPhoneの発売や無線LANの普及に伴い、ネットワークオーディオプレーヤーが2010年以降に登場しました。NTTドコモは、Twonkyを開発した企業を買収し、自社のスマートフォンやタブレットにTwonkyをプリインストールしましたが、アプリの完成度やユーザーからの反発などにより、販売戦略の変更を余儀なくされました。

2010年代半ばには、ネットワークオーディオプレーヤーの高性能化や音楽配信サービスの普及により、高音質の音楽データのダウンロードやストリーミングが可能になりました。しかし、ハイレゾやDSDへの対応が優先された結果、導入の敷居やプレイリスト管理が蔑ろにされる問題点も露呈しました。

オンデバイスプレイリストの登場

プレイリスト管理の問題点を解決するため、LINNは「オンデバイスプレイリスト」を導入し、プレーヤーとコントローラー間でプレイリストを双方向で送受信できるようにしました。これにより、DLNAの優位性が薄れ、多くのオーディオメーカーがDLNAに代わる独自の規格を模索するようになりました。

DLNAの解散、規格乱立時代へ

UPnPとは異なる通信プロトコルを持つ「Roon Ready」が登場し、ヤマハのミュージックキャスト、デノンとマランツのHEOS、オンキヨーとパイオニアのFlair Connectなど、独自のネットワークオーディオ規格が次々と発表されました。

2016年には、ドコモのTwonky Beamの公開が終了し、DLNAは事実上機能不全となり、2017年に解散しました。しかし、UPnPプロトコルを使用するネットワークオーディオは、DLNAの後継として「OpenHome」が2014年に策定され、現在も利用されています。

これらの新しい規格では、マルチゾーン機能やストリーミング機能が搭載され、サーバーの導入が簡素化されました。さらに、スマートスピーカー機能に対応したワイヤレススピーカーが登場し、プレーヤーやコントローラーとしての役割を担うようになりました。

構成

ネットワークオーディオシステムは、主に以下の3つの要素から構成されます。

サーバー: 音源を保存し管理する場所。DLNAではDMSと呼ばれます。
プレイヤー (レンダラー): 音源を再生する機器。DLNAではDMP/DMRと呼ばれます。
コントローラー: サーバーとプレイヤーを操作する端末。DLNAではDMCと呼ばれます。

これらの要素がネットワークで接続されていることが特徴です。PCオーディオとは異なり、これらの要素を自由に組み合わせることができる柔軟性が魅力ですが、その分導入のハードルが高いとも言えます。

サーバー

音源データは、PCやNASなどの外部記憶装置に保存されます。楽曲情報やプレイリスト管理はサーバー側で行われ、コントローラーの指示に応じて情報や音声データが各機器に配信されます。スマートフォンやタブレットをサーバーとして使用することも可能で、オーディオ用途に特化したサーバー機器も存在します。近年では、ネットワークオーディオプレーヤー自体をサーバー化する機種も登場しています。

プレイヤー、レンダラー

ネットワークオーディオプレーヤーは、コントローラーからの指示に基づいて、サーバーから配信される音楽データを再生します。多くのプレイヤーは、非可逆圧縮音源や可逆圧縮音源をデコードして再生するレンダリング機能も備えています。また、一部のプレイヤーではアップサンプリング機能もあります。

コントローラー

コントローラーは、従来のオーディオにおけるリモコンに相当します。音源の検索やプレイリスト作成機能を有しており、プレーヤー本体から独立しているため、機器本体の負担を軽減し、音質向上に貢献します。コントローラーは、サーバーとプレーヤーへ指示を送信するだけでなく、音楽情報や再生状況を表示することも可能です。スマートフォンの普及に伴い、様々なコントロールアプリケーションが登場しています。

音源について

音源の入手方法はPCオーディオと同様で、PCなどを通じてサーバーに格納する必要があります。ネットワークオーディオでは、MP3, WMA, AACなどの様々な音声データ形式に対応しており、ハイレゾ音源（FLAC, ALACなど）やDSDフォーマットも主流となっています。また、ストリーミング型音楽配信サービスの登場により、保存媒体がなくても音楽を楽しめるようになりました。

プレイリスト管理について

ほとんどの規格では、サーバー側でプレイリストが管理され、コントローラーへ配信されます。これにより、複数のコントローラーでプレイリストを共有することが可能です。また、コントローラー側でプレイリストの編集も可能で、編集された情報はサーバーに反映されます。DLNA1.5では、プレイリスト管理が定められていないため、コントローラー側で管理され、複数のコントローラーでの共有が困難という問題点がありましたが、現在ではプレーヤー側で管理する「オンデバイスプレイリスト」が主流になっています。

主な規格・プロトコル

以下に、現在利用されている主なネットワークオーディオの規格を挙げます。

UPnP、DLNA1.5: ネットワークプロトコルとして主流。DLNAはUPnPをベースとしており互換性が高い。2017年にDLNA団体は解散。
AirPlay: アップルが提供する規格。無線LANで音声データを伝送。画像や映像にも対応したAirPlay2も登場。
iTunesホームシェアリング: iTunesに登録された楽曲をiPhoneやiPadで聴いたり、Apple TVをレシーバーとして使用する機能。
Audirvana Plus 2: iTunesとの連携機能が特徴のMac用音楽再生アプリ。
JRiver Media Center: Windows、Mac、Linuxで利用可能な音楽管理・再生ソフト。
MPD: Music Player Daemonの略。音楽再生アプリとサーバーアプリが統合されたもの。
OpenHome: UPnPをベースにした規格で、DLNAの後継として利用。
ROON Ready: 独自のプロトコルを採用したネットワークオーディオ規格。
DTS Play-Fi: マルチルーム機能やストリーミング機能を搭載した規格。
ミュージックキャスト: ヤマハ独自のネットワークオーディオ規格。
HEOS: デノン、マランツ独自のネットワークオーディオ規格。
Flair Connect: オンキヨー、パイオニア独自のネットワークオーディオ規格。

関連項目

PCオーディオに関する記事へのリンク'>PCオーディオ
* Digital Living Network Alliance (DLNA)

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