ノガイ族

ノガイ族：カフカスに生きるテュルク系遊牧民の歴史と文化

ノガイ族は、北カフカス地方を中心に居住するテュルク系民族です。かつて広大な遊牧帝国を築き、独自の言語と文化を育んできた彼らの歴史と現在を紐解きます。

歴史：ジョチ・ウルスから現代へ

ノガイ族の起源は、13世紀後半に成立したジョチ・ウルスに遡ります。ジョチ・ウルスの有力者エディゲによって14世紀後半に独立国家ノガイ・オルダが建国されると、ノガイ族は主要な民族としてその発展に貢献しました。ヤイク川下流のサライジュクを拠点に、アラル海、カスピ海を舞台に活発な商業活動を行い、16世紀にはモスクワやカザンに馬や羊を大量に輸出するほど繁栄しました。

しかし、16世紀後半のカザン・ハン国とアストラハン・ハン国の滅亡を機に、ノガイ・オルダは「大ノガイ」、「小ノガイ」、「アルティウル」の3つのオルダへと分裂。その後、カルムイク族の侵攻をきっかけにヴォルガ川南方に移住を余儀なくされました。

18世紀末から19世紀にかけてはロシア帝国の支配下に置かれ、クリミア・ハン国の併合やコーカサス戦争を経て、一部のノガイ族はトルコやルーマニアへと移住しました。19世紀にはアストラハンやクリミアのノガイ族はヴォルガ・タタール人と同化が進みました。ロシア革命までは遊牧生活を営んでいましたが、その後は定住生活へと移行していきました。

現代のノガイ族は、主に北カフカス地方に居住し、「カラ・ノガイ」、「アチクラク・ノガイ」、「クバン・ノガイ」の3つのグループに大別され、それぞれ独自の言語方言を話します。各グループはさらに複数の部族に分かれ、強い結束を保っています。

文化：言語、宗教、そして叙事詩

ノガイ族の多くはイスラム教スンナ派を信仰しています。16世紀からアラビア語による文語教育が行われ、18世紀からはノガイ語をアラビア文字で表記していました。その後、1928年にはラテン文字、1938年以降はキリル文字へと表記体系が変更されました。現在のノガイ語の文語は、カラ・ノガイ方言を基にしています。

ノガイ族の文化遺産として特筆すべきは、15世紀前半に書かれた叙事詩『エディゲイ』です。ノガイ・オルダの建国者エディゲとジョチ・ウルスのトクタミシュの戦いを描いたこの叙事詩は、テュルク系民族の民族的遺産として高く評価されています。

社会：遊牧から定住へ

かつては遊牧民として生活していたノガイ族ですが、ロシア革命以降は定住生活が中心となっています。しかし、伝統的な遊牧文化に根付いた生活様式や社会構造は、現代においても部分的に残されています。牧畜や農業を主な生業としていますが、その生活様式は地域によって多様性を示します。

民族構成：モンゴロイドとコーカソイドの混合

ノガイ族は、モンゴロイドとコーカソイドの両方の血を受け継いだ混合民族です。しかし、モンゴロイド的な特徴がより強く現れているとされています。

結論

ノガイ族は、長い歴史の中で幾多の困難を乗り越え、独自の文化とアイデンティティを維持してきた民族です。彼らの歴史と文化は、テュルク世界の多様性と豊かさを示す重要な事例となっています。現代においても、ノガイ族は独自の言語と文化を継承し、北カフカス地方の社会に貢献し続けています。今後の研究により、彼らの歴史と文化に関する理解がさらに深まることが期待されます。

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