ノロ

ノロ（祝女）

ノロは、琉球神道において重要な役割を担う女性祭司であり、神官、巫女（かんなぎ）とも呼ばれます。地域の祭祀を取り仕切り、御嶽（うたき）と呼ばれる聖地での祭祀を司る存在です。ヌール・ヌルとも発音されます。

琉球王国時代、祭政一致による宗教支配の手段として、古琉球由来の信仰を基に整備され、王国各地に配置されました。民間の巫女である「ユタ」とは区別されます。

宗教上の概念

ノロの制度は、第二尚氏王朝の尚真王時代に確立されました。琉球神道は、アニミズムと祖霊信仰を根幹とし、海の彼方のニライカナイや天空のオボツカグラといった他界の概念を持ちます。これらの他界には、太陽神（ティダ）をはじめとする多くの神々が存在し、また、人々の魂も死後ニライカナイに渡り、子孫を守護すると信じられています。

ノロは、これらの神々と交信し、祭祀の間は神を自身に憑依させることで、神そのものとなると考えられています。そのため、「神人（かみんちゅ）」とも呼ばれます。

ノロはしばしば「巫女」と訳されますが、本土の神道の巫女のような神主の補佐役や雑務を行う存在ではなく、祭祀を司る祭司そのものです。民俗学では「祝女」という字が当てられますが、これは男性神職に近い役割を持つことを意味します。神と交信し、神を憑依させることができるのは女性に限られるため、ノロはすべて女性です。

婚姻に制限はなく、むしろ既婚者が就くことも多くありました。琉球王国時代には、王族や有力者の妻や娘がノロの職に就くことも珍しくありませんでした。

任命と儀礼

ノロは原則として世襲制で、ノロ殿地（どぅんち）と呼ばれる家系から選ばれます。これらの多くは、琉球王国時代に王府から任命されたもので、元々は各地域の有力な按司（あじ）の親族であったと考えられています。これは、琉球神道の背景にある、おなり神信仰に由来するとされています。

新たなノロの就任には、地域ごとに認証儀礼が設けられています。また、ユタのように、カンダーリィと呼ばれる原因不明の体調不良や、夢の啓示などによって選ばれる例もあります。王国時代には、ノロの任命が順当に行われなかった場合に、近親者から後継者が選ばれることもありました。

ノロは原則として終生職ですが、一部の地域では引退儀礼も存在します。また、三代後（祖母から孫娘）に霊威（セジ）が引き継がれると考えられています。

戒律と装束

ノロは、豊穣を願い、災厄を払い、祖先を迎え、豊穣を祝うといった祭祀を行うことが主な役割であり、特定の戒律や教典は存在しません。偶像崇拝は行わず、御嶽にあるイビ石などを神体として崇拝しますが、これはあくまで依り代に対する尊崇です。処女性は特に問われませんが、既婚か独身か、年齢要件などが確認される場合があります。

ノロの服装は決まっていませんが、琉装や和装の白装束が多いです。また、草の冠（神カムリ）などの草装も見られ、これは神が憑依していることを意味します。装身具として勾玉を身に着けることもあります。

琉球王国の神女体制

琉球王国は、尚真王の時代に全国の神女体制を整備し、琉球神道と統治機構を一体化させました。「ノロ」という呼称もこの時に正式名称として制定されました。全国のノロの頂点には、聞得大君（きこえおおぎみ）が置かれました。聞得大君は国王を守護する存在であり、王国を守護し豊穣をもたらす神とされました。聞得大君の下には、阿応理屋恵や佐司笠などの「君」や、大阿母志良礼などが配置され、ヒエラルキーを形成していました。

当時のノロは領地を認められた一種の地方大名であり、神聖裁判を行うなど、地域自治にも大きな権能を有していました。

衰退と現在

薩摩侵攻後の改革により、17世紀中ごろに神女体制は弱体化し、王府内の高級神女職は廃止されました。その後も各地域のノロ職は存続し、現在まで残っているものも多くあります。聞得大君職も王国滅亡後も長く存続しましたが、太平洋戦争中に廃止されました。

現在でも、ノロは琉球の伝統文化を継承する重要な存在として、その役割を担っています。

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