ノーザン・セキュリティーズ

ノーザン・セキュリティーズ社：アメリカ鉄道史に残る巨大資本と反トラスト法闘争

1902年設立のノーザン・セキュリティーズ社は、アメリカ合衆国においてかつてない規模を誇った鉄道持株会社でした。しかし、その巨大な資本力ゆえに、当時の反トラスト法であるシャーマン法に抵触するとして、セオドア・ルーズベルト大統領により提訴され、違法判決を受けました。本記事では、ノーザン・セキュリティーズ社の設立から解体までの経緯、そしてその後のアメリカ鉄道業界への影響について詳細に解説します。

設立の背景：鉄道王たちの覇権争い

19世紀末、アメリカ大陸横断鉄道は、グレート・ノーザン鉄道（GN）、ノーザン・パシフィック鉄道（NP）、ユニオン・パシフィック鉄道（UP）の三社がその中心を担っていました。特にGNとUPは、業界のトップを争う存在でした。

ジェームズ・ジェローム・ヒルはGNの社長であり、NPの大株主でもありました。一方、エドワード・ヘンリー・ハリマンはUPを実質的に支配していました。両雄は、シカゴ・バーリントン・アンド・クインシー鉄道（CB&Q）の獲得に乗り出します。CB&Qはシカゴという交通の要衝に乗り入れており、両社の鉄道網を強化する上で重要な役割を果たしていました。

当時、CB&Qは経営手腕に長けた社長、チャールズ・エリオット・パーキンスの下、順調な経営を維持していました。しかし、ストライキや規制当局の介入の影響を受け、経営に苦慮していました。パーキンスはCB&Qの更なる発展を模索していましたが、取締役会との意見の相違もあり、売却を検討し始めます。

CB&Q獲得合戦と1901年恐慌

ハリマンはかねてよりCB&Qの買収を狙っていましたが、パーキンスは1株200ドルでの売却を公表。ヒルはこれに合意し、ジョン・ピアポント・モルガンの協力を得て、GNとNPでCB&Q株の過半数を獲得します。

しかし、ハリマンはNPの株を大量に買い占めることで、CB&Qの経営権を掌握しようと画策します。彼はモルガンと敵対関係にあったクーン・ローブ商会と協力し、秘密裏に株を買い進めます。この動きによって、4月以降、NPの株価は急騰。この出来事が、1901年の金融恐慌（ノーザン・パシフィック・コーナー）を引き起こすことになります。

ハリマンとヒルの激しい株取引は、市場に大きな混乱をもたらしました。投機筋による空売りが拡大し、市場全体が暴落の危機に瀕します。最終的に、モルガンらの介入によって事なきを得ますが、この出来事はアメリカ経済に大きな衝撃を与えました。

ノーザン・セキュリティーズ社の設立と反トラスト法訴訟

1901年11月、ヒルはGN、NP、CB&Qの三鉄道の統合を目指し、ニュージャージー州に持株会社ノーザン・セキュリティーズ社を設立します。資本金4億ドルという巨大な会社でした。取締役には、ハリマン、シフ、モルガンといった錚々たる顔ぶれが名を連ねました。

しかし、GNの設立許可を出したミネソタ州は、この統合をシャーマン反トラスト法違反として提訴します。長期間にわたる裁判の結果、1904年3月、アメリカ合衆国最高裁はノーザン・セキュリティーズ社を違法と断罪しました。この判決は、アメリカにおける反トラスト法の歴史において重要な転換点となりました。

ノーザン・セキュリティーズ社の解体とその後

最高裁の判決は、ノーザン・セキュリティーズ社の解体を直接命じたわけではありませんでしたが、事実上の解体へと繋がります。ヒルは全株主に99％の減資を行い、NPとGNの株を元の株主に返還しました。この過程で、ハリマンとの激しい権力闘争が繰り広げられましたが、最終的にはヒルのグループが優位に立ちました。

この判決は、その後のアメリカにおける企業結合のあり方に大きな影響を与えました。また、GNとNPはその後合併し、バーリントン・ノーザン鉄道となりました。

結論

ノーザン・セキュリティーズ社は、アメリカ鉄道史における巨大資本と反トラスト法闘争の象徴的な存在でした。その設立と解体の過程は、企業結合のあり方、そして政府による規制の重要性を改めて認識させる歴史的な出来事となりました。この事件は、アメリカ経済、特に鉄道業界の構造に大きな変化をもたらし、現代の企業経営や規制にまで影響を与え続けています。

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