クーン・ローブ

クーン・ローブ＆カンパニー：グローバル金融を舞台に活躍した名門財閥

クーン・ローブ＆カンパニー（Kuhn, Loeb & Co.）、あるいはクーン・ローブ商会として知られるこの金融機関は、1867年ニューヨークに設立されたグローバルな金融財閥でした。アブラハム・クーンとソロモン・ローブの両名が創業に携わり、後にクーン家の娘とローブ家の息子が結婚、一族として結束を強めました。この一族関係は、後の国際的な金融ネットワーク構築に大きな役割を果たします。

創業期と鉄道事業への投資

1870年代以降、クーン・ローブ商会は、現在のベンチャーキャピタルのような役割を担い、急成長を遂げていたアメリカの鉄道事業に積極的に投資しました。モルガン財閥と競合しながら、シカゴ・ノースウェスタン鉄道、ペンシルバニア鉄道、シカゴ・ミルウォーキー・セント・ポール・アンド・パシフィック鉄道など、数々の鉄道会社への資金調達に貢献しました。その中心人物が、ロスチャイルド家と親交の深かったジェイコブ・ヘンリー・シフです。シフはフランクフルト・ゲットーでロスチャイルド家と共に生活経験があり、その繋がりはクーン・ローブ商会の国際的な展開に影響を与えたと考えられます。

ユニオン・パシフィック鉄道の事業再建への支援や、1901年のノーザン・パシフィック鉄道買収劇への関与など、クーン・ローブ商会は、アメリカの産業発展に大きな影響力を持つ存在でした。鉄道以外にも、ウェスティングハウス、ウェスタン・ユニオン、ポラロイドといった巨大企業への長期的な財政支援を行い、アメリカ経済を支える重要な役割を担いました。さらに、オーストリア、フィンランド、メキシコ、ベネズエラなど、いくつかの外国政府の財政アドバイザーも務めており、その活動はアメリカ国内にとどまりませんでした。パリ・リヨン・地中海鉄道の社債引受も手がけています。

日露戦争と日本公債

クーン・ローブ商会は、ジョン・ロックフェラーのメインバンクとしても知られており、国内産業への投資に加え、中華民国や大日本帝国など、海外政府の公債引受にも積極的に参加しました。特に、日露戦争時の日本公債引受は、その国際的な影響力を示す象徴的な出来事でした。日本政府は日英同盟に基づき、ロンドンで日本公債を販売しようとしましたが、カスピ海バクー油田の利権を持つロスチャイルド家は、その購入を拒否しました。代わりに、ロスチャイルド家は親しい間柄にあったシフを紹介し、クーン・ローブ商会が日本公債を引き受けました。日本は戦費を調達することに成功しましたが、戦後も長期にわたり金利の支払いを続けることとなり、シフは「日露戦争で最も儲けた」と評されたといいます。

1911年には、ロックフェラーと共同で、後にチェース銀行と合併するエクイタブル・トラスト社を買収。関東大震災時には、台湾電力の社債を引受けるなど、日本との関係も長く深く続いていました。

リーマン・ブラザーズとの合併とその後

1977年、クーン・ローブ＆カンパニーはリーマン・ブラザーズと合併し、「クーン・ローブ・リーマン」となりました。その後、1984年にアメリカン・エキスプレスに買収され、「シェアソン・リーマン・アメリカン・エキスプレス」と改名された際に、クーン・ローブの名は歴史の中に消えていきました。しかし、クーン・ローブの業績と歴史は、アメリカの金融史、ひいては世界の金融史において重要な一章を刻んでいます。なお、現在でも金融業界で知られる「リーマン」という名称は、クーン・ローブと深く関わりのあったこの企業の起源を示唆しています。

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