ノー・プッシーフッティング

ノー・プッシーフッティング (No Pussyfooting)

ロック界の実験的な探求者として知られるキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップと、アンビエントミュージックの提唱者であるブライアン・イーノ（当時はロキシー・ミュージックに在籍）がタッグを組み、「フリップ＆イーノ」名義で初めて発表したスタジオ・アルバムが、1973年リリースの『ノー・プッシーフッティング』です。

両者の出会いは、1972年に遡ります。彼らは当時、プログレッシブ・ロック・バンド、マッチング・モウルのアルバム『そっくりモグラの毛語録』の制作に携わりました。フリップがプロデューサーとして、イーノがシンセサイザー奏者として参加したこの共演が、二人の音楽的な意気投合を促し、新たなコラボレーションへの扉を開きました。

本作の収録曲は、それぞれ異なる時期に制作されました。最初に生まれたのは、アルバムA面に収録された「ヘヴンリー・ミュージック・コーポレーション」です。この楽曲は、意気投合した二人が1972年9月8日にイーノの自宅スタジオで録音したものです。フリップはこの録音に手ごたえを感じ、同年10月からはキング・クリムゾンのコンサートにおいて、この曲の録音テープをオープニングSEとして使用するようになります。

対するB面を飾る「スワスティカ・ガール」は、「ヘヴンリー・ミュージック・コーポレーション」の録音からおよそ11ヶ月後、1973年8月4日から5日にかけてのセッションで録音され、その後の8月21日と22日にミキシング作業が行われました。この楽曲の印象的なタイトルは、ブライアン・イーノがレコーディングへ向かう道中で見つけたという、ある特定の挑発的なイメージを持つ写真に由来しています。イーノ自身が語るところによれば、スタジオに持ち込まれたその写真はコンソール脇に貼られ、二人はそれを見つめながら楽曲制作を進めたといいます。

『ノー・プッシーフッティング』のサウンドを特徴づける根幹には、当時としては革新的だった録音手法があります。それは、オープンリール式のテープレコーダーを2台使用し、一方のテープレコーダーで作ったテープ・ループを再生しながら、もう一方に新たな音を重ねていくというシステムです。この手法は、後にロバート・フリップのソロ活動やライブパフォーマンスにおいて中心的な役割を担い、彼の代名詞ともなる「フリッパートロニクス」と呼ばれるシステムへと発展しました。フリップは本作の全てのギターパートでギブソン・レスポールを使用しています。

オリジナル盤に収録されたのは、これらの長尺な2曲のみです。

1. "The Heavenly Music Corporation" – 20:55
2. "Swastika Girls" – 18:43

本作は、その後の音楽シーンにも大きな影響を与えました。音楽評論家からの評価も高く、オールミュージックのテッド・ミルズは5点満点中4.5点を与え、このアルバムで用いられたテープ・ループシステムが、その後のフリップとイーノの共作である『イヴニング・スター』や、イーノのソロ作品『ディスクリート・ミュージック』でさらに洗練されていった点を指摘しています。また、フリップ自身のキャリアにおける重要な基盤、特にライブ盤『レット・ザ・パワー・フォール』などで顕著に見られるフリッパートロニクスの「すべての始まりはこの『ノー・プッシーフッティング』にある」とその革新性を称賛しました。著名な評論家ロバート・クリストガウも本作にB+の評価を与え、テリー・ライリーの『A Rainbow in Curved Air』以来の、ポップ・エレクトロニクスとして特に楽しめる作品と評し、「スワスティカ・ガール」におけるフリップのギタープレイを聴き所として挙げています。

さらに、ニューヨークのロックバンド、ザ・ストロークスが2003年にリリースした楽曲「ジ・エンド・ハズ・ノー・エンド」のミュージック・ビデオには、本作の印象的なジャケットデザインにインスパイアされたと思われる、鏡張りの部屋での演奏シーンが見られます。これは、時代を超えてこのアルバムが持つ視覚的、音楽的な影響力の一例と言えるでしょう。

フリップとイーノ、二人の個性が見事に融合し、テープ・ループという手法を用いて新たな音楽表現の可能性を切り拓いた『ノー・プッシーフッティング』は、アンビエントや実験音楽の歴史において、今なお重要な位置を占める作品です。

参加ミュージシャン

ロバート・フリップ - ギター
ブライアン・イーノ - テープレコーダー操作、シンセサイザー

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