ハインツ・コフート

ハインツ・コフート：自己心理学の創始者

ハインツ・コフート（1913年5月3日 - 1981年10月8日）は、オーストリア出身の精神科医であり、精神分析学者です。彼は、精神分析的自己心理学の創始者として知られ、自己愛の研究や間主観的アプローチの先駆けとなりました。

生涯

ウィーンで生まれたコフートは、音楽家の父と母のもとで育ちました。1938年にウィーン大学医学部を卒業後、ナチスの迫害を逃れてイギリスへ亡命。その後、アメリカ合衆国へ移住し、シカゴ大学医学部で精神神経学を研究しました。

1950年に精神分析家の資格を取得し、シカゴ精神分析研究所で活動を始めました。1963年には同研究所の所長に就任し、アメリカ精神分析学会の会長も務めるなど、アメリカ精神分析界の中心人物として活躍しました。

しかし、1960年代後半から、従来の精神分析理論とは異なる独自の理論を提唱し始めました。それが、自己心理学です。1971年に発表した『自己の分析』は、自己愛性パーソナリティ障害の精神分析的治療に関するもので、従来の理論からの逸脱として賛否両論を呼びました。

1977年には、『自己の修復』を発表し、自己心理学の理論をさらに発展させました。この著作は、精神分析家からの反発を招きましたが、コフートは自己心理学の研究を続け、新しい学派としての地位を確立しました。

1981年、悪性リンパ腫によりシカゴで亡くなりましたが、彼の遺した自己心理学は、現代の精神分析に大きな影響を与え続けています。

自己心理学とは

自己心理学は、コフートによって提唱された精神分析の新しい理論です。従来の精神分析が、無意識的な欲動や葛藤を重視するのに対し、自己心理学は、自己の確立と維持を重視します。

コフートは、自己愛を病的なものとして捉えるのではなく、健康な自己を形成するために必要なものと考えました。そして、幼児期における親との関係が、自己の発達に大きな影響を与えることを指摘しました。

自己心理学では、共感的な理解と受容が治療の中心となります。セラピストは、患者の主観的な体験を理解し、共感的に寄り添うことで、患者の自己を強化し、成長を促します。

業績

コフートは、自己心理学の創始者として、精神分析の分野に多大な貢献をしました。彼の業績は、以下の点が挙げられます。

自己愛性パーソナリティ障害の研究
自己心理学という新しい精神分析理論の提唱
共感的な理解と受容を重視する治療法の開発

コフートの理論は、自己愛の問題を抱える人々だけでなく、より広く人間の心の理解を深める上で重要な視点を提供しています。

参考文献

Kohut, H. (1971). The Analysis of the Self. New York: International Universities Press.
Kohut, H. (1977). The Restoration of the Self. New York: International Universities Press.
丸田俊彦（1992）：コフート理論とその周辺―自己心理学をめぐって、岩崎学術出版社

関連人物

ジークムント・フロイト
アンナ・フロイト
ハインツ・ハルトマン
オットー・カーンバーグ

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