ハシボソミズナギドリ

ハシボソミズナギドリ：驚異の渡りをする海鳥

ハシボソミズナギドリ（学名：Ardenna tenuirostris）は、ミズナギドリ目ミズナギドリ科に属する海鳥であり、その特筆すべき特徴は長距離移動能力です。この鳥は、年間において約32,000kmもの距離を渡ることが知られており、これは鳥類の中でも最も長い渡りの一つとされています。

分布と繁殖

ハシボソミズナギドリは、オーストラリア南東部やタスマニア近郊の島々で繁殖します。非繁殖期には、赤道を越えて北上し、日本近海でもほぼ年間を通じて観察されることがあります。ただし、冬季にはその数は減少します。特に、5月から8月頃には、親鳥と若鳥が大勢で集まり、5月から6月には太平洋岸に向けて北上する若鳥たちが多く目撃されます。大群は餌を求めて洋上を移動し、時にはベーリング海を超えて北極海にまで渡ることもあります。繁殖しない若鳥は日本近海に留まる一方で、繁殖を迎える親鳥は北アメリカ沿岸を南下し、再び繁殖地へ戻ります。

その大規模な渡りルートは、太平洋の北西部に大きな「8」の字を描く形になります。これは、他の鳥類と比較しても圧倒的なスケールを誇り、カモメ科のキョクアジサシと共に最大の移動を見せる鳥たちです。このように、ハシボソミズナギドリは海上での生活をしながら、餌の生息状況に応じた渡りを行います。

形態

ハシボソミズナギドリの全長は約42cmで、翼開長は97cmに達します。体格はアホウドリよりも小さく、体重は480gから800g程度です。雌雄は色においてほぼ同じで、全身は黒褐色ですが、体の下面は少し灰色がかった色合いを持ちます。翼の下部は光の加減で灰色や灰白色にも見えることがあります。嘴は黒褐色で、他のミズナギドリに比べて短く、細めです。この特徴が和名の由来となっています。足も黒褐色です。

生態

この種の鳥は非繁殖期中、主に海で生活しています。彼らは速い羽ばたきと滑空を巧みに使い、海面に近いところを飛びながら、魚やイカの大群を見つけます。餌を探す時、数羽が集まって海面に潜り、捕食を行います。

繁殖期は毎年9月から10月ごろに始まり、タスマニアやオーストラリア南東部の小島に戻ります。この時、特定の伴侶と共に巣穴に戻り、草を少し敷いた1-2ｍの巣を作ります。11月下旬には、通常1個の白色無斑の卵を産み落とします。卵のサイズは約7.2-7.3cm x 4.4-4.7cmで、抱卵期間は約50日です。卵から孵化したヒナは、親鳥からオキアミを補給され、肥育されていきます。成長したヒナは、親鳥が移動した後も蓄えた脂肪で生き延びながら育っていきます。

人間との関係

オーストラリアでは、巣穴に残されたヒナが「マトンバード」と呼ばれ、食用として利用されることがあります。脂肪は製油されて、ビタミンA剤としても用いられますが、捕獲には制限が設けられており、繁殖地は厳格に保護されています。このように、ハシボソミズナギドリは自然環境と人間との関係が深く、保護のための取り組みも重要です。

これらの特徴から、ハシボソミズナギドリはその生態や生活様式において非常に興味深い鳥類であり、未来にわたってその存在が守られることが求められています。

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