ハナビスゲ

ハナビスゲ（Carex cruciata）

概要

ハナビスゲ（Carex cruciata Wahlenb. 1803）は、カヤツリグサ科スゲ属に属する植物で、特に九州で見ることができます。この植物はその名の通り、花序が花火のような形をしていることから名付けられています。長い茎に多数の花序が付き、成熟すると果胞が白く膨らむ特性があります。

特徴

ハナビスゲは大きな多年生草本であり、根茎は短いものの土の中を横に這って成長します。このため、株全体が広がるようにまとまります。花茎は40〜100cmの長さに達し、根出葉はこれよりも長くなる場合があります。また、花茎の中ほどまでは茎葉が付いています。

葉の幅は6〜15mmで、厚手の緑色をしており、縁はざらついています。基部の鞘は褐色です。花の開花時期は9月から12月にかけてで、花茎は上に向かって伸びますが、倒れやすい特性があります。

花序は円錐花序で、複数の小穂が付きます。小穂はほぼ同じ形で、上部に雄花、下部に雌花があります。各小穂の基本には苞があり、特に下方のものは葉身が発達し、40〜100cmにもなります。

個々の花序は卵型で、長さは3〜10cmです。小穂は長卵形で、長さは5〜12mm程度。雄花と雌花の部位は同程度の長さですが、幅は雄花部が狭くなっています。これにより、全体の形は注射器に似た印象を与えます。果胞は雌花鱗片より突き出ており、長さは3〜4mmです。果胞は成熟するにつれて白くなり、開出してぶら下がります。

花序の構造

ハナビスゲの花序は円錐花序を形成し、その構造は総状に並ぶ小穂から生じます。雌花の果胞から二次的な枝が出て、それに雄雌の小穂が付く形です。このような構造を持つ植物は日本では非常に限られており、アブラシバ（C. satzumensis）も似た特徴を持ちますが、ハナビスゲはより目立つ外観を持っています。

生育環境

この植物は日本では九州の長崎県と熊本県、そして屋久島、種子島に限られています。特に長崎市の琴海地区は本種の生育が最も多い場所とされています。野生のハナビスゲは湿った林縁部や山間部の谷沿いに見られ、その生息環境は特異です。国外では台湾や中国南部、東南アジア、ヒマラヤ、オーストラリアにも分布しています。

分類と関係

花序の独特な構造は本種の大きな特徴であり、他のスゲ属の多くとは異なる点です。雄雌性の小穂が全て同型である点も共通しており、近縁にあたるアブラシバとともにジュウモンジスゲ節として分類されています。しかし、その他の研究では二つの種を別々に評価されています。

保護状況

環境省のレッドデータブックではハナビスゲは絶滅危惧II類に指定されており、特に長崎と熊本では絶滅危惧I類に指定されています。この分類は分布域の狭さと相まって、それぞれの地域で保護の必要性を強調しています。

参考文献

• - 大橋広好他編、『改定新版 日本の野生植物 1 ソテツ科～カヤツリグサ科』、(2015)、平凡社
• - 佐竹義輔他編、『日本の野生植物. 草本 1 単子葉類』、(1982)、平凡社
• - 北村四郎他、『原色日本植物図鑑 草本編 III』改訂53刷、(1998)、保育社
• - 勝山輝男、『日本のスゲ 増補改訂版』、(2015)、文一総合出版
• - 小山鐡夫、「スゲ」：『朝日百科　植物の世界 10』、(1997)、朝日新聞社

もう一度検索