ハプログループO1b1 (Y染色体)

ハプログループO-F2320 (Y染色体)

ハプログループO-F2320は、Y染色体の遺伝的系統分類におけるハプログループO1bの下位系統（サブクレード）の一つです。別名をハプログループO-K18または系統名称O1b1とも呼ばれ、F2320あるいはK18という特定のSNP（一塩基多型）によって定義されます。

現代の日本人や朝鮮民族の男性に比較的高頻度で見られるハプログループO1b2-M176とは遺伝的に近い関係にあり、両系統が分岐した共通祖先は約3万1千年前まで遡ると推定されています。また、現在のO1b1-F2320系統に属する全ての人々の最も新しい共通祖先（TMRCA: Time to Most Recent Common Ancestor）は、約2万4千4百年前と見積もられています。

この系統は、主に東アジア、東南アジア、南アジアの男性集団において観察されます。その分布や多様性から、いくつかの主要な下位系統に分類されています。

分布と下位系統

O1b1系統には、主に以下の主要な下位系統が存在します。

O1b1a1a-M95

かつてハプログループO2aとして知られていたO1b1a1a-M95は、O1b1系統の中でも特に広がった系統です。その分布の中心は中国南部、東南アジア、インド東部にあり、特にオーストロアジア語族に属する言語を話す民族に高頻度で見出されます。例えば、ニコバル人やションペン人では非常に高い頻度で確認され、ラオス南部やカンボジア北東部のクイ族、海南島のリー族、バリ人、プイ族、ムンダ系民族などでも高い割合で観察されます。

オーストロネシア語族が分布する東南アジア島嶼部にも相当数見られることから、オーストロネシア語族の起源や拡散との関連性も議論されています。

オーストロアジア語族の集団以外では、インド北東部やバングラデシュに居住するチベット・ビルマ語派の民族でも比較的よく見出されます（例：Mech族、トリプラ族、ガロ族、マルマ族、チャクマ族など）。

日本においても、男性人口の平均約1.3%程度で観察されています。日本で見られるO-M95の特定のサブクレード（O-Y85641など）は、中国東北部やその周辺にもわずかに分布しており、約1000年前に共通祖先を持った集団に関連すると考えられています。このサブクレードの上位にあたるO-FGC19713/O-Y13994系統は、中国、ベトナム、ラオス、タイ、フィリピンなど、より広範な地域に分布し、共通祖先は約3千数百年前に遡ります。

O-M95系統全体の共通祖先は約1万1千年以上前と推定される比較的古い系統ですが、現在から約6千年から5千年前（紀元前4千年紀頃）にかけて多くの下位系統が分岐したと見られています。この時期は中国南部から東南アジアへの集団移動があった可能性が考えられ、特に稲作の拡散との関連が指摘されています。O-M95系統を持つ集団が稲作を伴ってこれらの地域に広がったという歴史的背景が推測されています。

O1b1a1b-F838

O1b1a1b-F838系統は、主に中国に居住する漢族の男性において確認されています。この系統はO-M95系統とは約1万4千年前に共通祖先を持っていたと推定されています。

中国国内の漢族男性の約1.4%がこの系統に属すると推定されており、主に中国の中南部に分布が見られます。中国以外の地域でも、台湾の漢族、ベトナム、インドネシア、台湾のシラヤ族などにおいて少数の確認例が報告されています。

O1b1a2-CTS4040

O1b1a2-CTS4040系統もまた、主に中国の漢族男性に見られる系統です。しかし、その分布はより広範で、中国の傣族、台湾の漢族や平埔族、ベトナム（ホーチミン市）、フィリピン（特にルソン島南部）、インドネシア（西カリマンタン州）、韓国、日本、カタールなど、周辺の国や地域でも確認されています。

この系統の共通祖先は、O1b1系統全体の共通祖先とほぼ同じ、約2万4千年前まで遡る可能性が推定されています。中国の漢族における頻度は約5.0%で、中国全国の男性人口では約3.22%を占めます。

O-CTS4040の多くの割合（中国全国男性人口の約1.99%）を占めるO-F3323という下位系統は、約3930年前に共通祖先を持つ比較的若い系統です。O-F3323は中国の東北地方や沿岸部（遼寧省、黒龍江省、吉林省、山東省、江蘇省など）に比較的高頻度で分布する傾向が見られます。

歴史上の人物では、中国三国時代の魏の基礎を築いた曹操が、この系統の主要なサブクレードであるO-Page59に属していた可能性が推定されています。

日本国内におけるハプログループO1b1の頻度

日本国内におけるハプログループO1b1系統全体の出現頻度は、調査地域によってばらつきがあります。以下にいくつかの調査例を示します。

九州: 3.8%
金沢市学生: 3.7%～4.4%
東京（1000ゲノムプロジェクトJPTサンプル）: 3.6%
徳島: 2.9%
徳島市学生: 2.1%～3.6%
札幌市成人男性: 1.9%～4.9%
徳島: 1.8%
静岡: 1.6%
長崎市学生: 1.0%～2.0%
大阪市成人男性: 0.8%～1.7%

一方、アイヌ、青森、山口、沖縄、茨城などでは調査において検出例が報告されていない場合もあります。

これらのデータから、日本国内におけるO1b1系統の頻度は地域によって差があるものの、全体としては平均約1.3%程度と推定されます。

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