ハマボウ

ハマボウ（浜朴・黄槿）

ハマボウ（学名: Hibiscus hamabo）は、アオイ科フヨウ属に分類される落葉性の低木です。日本では西日本を中心に、韓国の済州島や奄美大島にかけて分布しており、内湾の海岸に自生する塩生植物として知られています。特に、夏の時期に咲かせる鮮やかな黄色の花が特徴的です。

名称について

和名である「ハマボウ」は、「浜辺に生えるホオノキ」を意味するとされています。漢字では「浜朴」と表記されますが、植物学者の牧野富太郎は、「ホウ」の語源が不明であるとし、フヨウの転訛ではないかと推測しています。また、別名である「黄槿」は、黄色いムクゲを意味しますが、これも誤用ではないかと指摘されています。中国語では「海濱黃槿」と表記されます。

分布と生育環境

ハマボウは、太平洋側では神奈川県以西から九州の奄美大島にかけて、日本海側では韓国の済州島から長崎県対馬、島根県の隠岐諸島以南に分布しています。かつて日本海側の北限は長崎県対馬市佐護とされていましたが、隠岐諸島での生育が確認されたことで、その分布域は大きく更新されました。ハマボウの群落は、九州西部や紀伊半島のリアス式海岸の入り江に多く見られますが、その他にも河口や内湾などの汽水域に広く分布しています。

生育環境としては、潮間帯上部から潮上帯の砂地や砂泥地に根を下ろします。塩分に対する耐性が高く、満潮時には根元が海水に浸かるような場所でも生育できます。他の塩生植物であるヨシ、シオクグ、ハマサジ、メヒルギなどと混生することもあります。自然環境下では海岸から離れて生育することはほとんどなく、荒波が打ち寄せる場所にも見られません。マングローブが発達しない九州以北では、ハマジンチョウやハマナツメなどとともに特徴的な生態を示す植物として、「半マングローブ植物」と呼ばれることもあります。

形態・生態

ハマボウは、樹高が1～3mほどの落葉広葉樹の低木です。枝はよく分かれて密に茂り、周囲に障害物がない場所では横に広がり、直径5m程度に達することもあります。幹は灰白色から淡褐色で滑らかですが、縦方向に浅く裂けることがあります。葉は互生し、直径3～8cmほどの円に近いハート形で、やや厚みがあります。縁には細かい鋸歯があり、葉の裏側や細い枝には灰白色の細毛が密生しています。秋から初冬にかけて紅[[葉]]し、赤や黄色に変色した後に落葉しますが、果実は翌春まで残ることもあります。根はあまり深くありませんが、倒れてもすぐに発根する性質があります。

開花期は7～8月で、直径7cm程度の黄色い花を咲かせます。花の中心部は赤褐色で、花弁は付け根から回旋して伸びる独特の形状をしています。花の形状は、同じアオイ科のハイビスカス、ムクゲ、フヨウなどに似ています。花は一日でしぼみますが、大きな株では夏季に毎日次々と開花します。果実は蒴果で、褐色の毛が密生しており、秋には先端が尖った鶏卵形の実をつけます。果実の中には、長さ4～5mm程度の黒褐色の種子が十数個ほど入っています。種子は海水に浸かっても死なず、海を介して分布を広げることができます。冬芽は裸芽で、枝と共に灰白色の星状毛で覆われており、側芽は枝に互生しています。葉痕は半円形で、維管束痕は3～数個が輪状に並びます。

人間との関わり

ハマボウの木材は、キクラゲの原木栽培に利用されています。かつては、木材を水中メガネの枠に、皮の繊維をロープに使用していた歴史もあります。また、観賞用として栽培されることもあります。

減少と保全

ハマボウは、現存する個体数は比較的多いものの、河川改修や海浜部の造成によって、良好な群落が減少しています。環境省のレッドリストには掲載されていませんが、多くの府県で絶滅種または絶滅危惧種に指定されており、その動向が注目されています。特に大阪府では絶滅したとされており、かつて日本海側の北限とされていた長崎県対馬市佐護の群落も、河川改修によって消滅しています。各自治体では条例により、天然記念物や希少野生動植物種に指定し、保護活動が行われています。

市町村のシンボル

ハマボウは、その美しい花姿から、以下の市町村でシンボルとして指定されています。

徳島県鳴門市の花（1983年）
和歌山県御坊市の花木（1994年）
福岡県糸島市の花（2011年）
長崎県西海市の花木（2009年）
熊本県天草市の花（2009年）

類似種

ハマボウと類似した種として、以下の植物が挙げられます。

オオハマボウ (H. tiliaceus L.): 屋久島や種子島以南の南西諸島、および小笠原諸島の海岸に生える高木で、葉も大きく、樹高も4～12mに達します。
モンテンボク (H. glaber (Matsum. ex Hatt.)Matsum. ex Nakai): 小笠原諸島の固有種で、高さ10～15mに達する高木です。葉に光沢があり、海岸ではなく山の斜面に生えます。花はやや小さめです。
サキシマハマボウ (Thespesia populnea (L. ) Sol ex Correa): 別属の植物ですが、海岸に生え、黄色い花をつける点がハマボウに似ています。琉球諸島から熱帯アジア一帯に分布しています。

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