フヨウ

フヨウ（芙蓉）

フヨウ（学名: Hibiscus mutabilis）は、アオイ科フヨウ属に分類される落葉低木です。種小名mutabilisは「変化しやすい」という意味を持ち、その名の通り、花の色の変化が特徴的です。別名として「木芙蓉」とも呼ばれ、特にハス（芙蓉）と区別する際に用いられます。中国では「木芙蓉」と呼ばれ、成都は「芙蓉の都」として知られています。

分布と生育環境

フヨウは中国原産とされ、中国各地や台湾、日本の沖縄、九州、四国に分布しています。日当たりの良い場所を好み、温暖な地域の海岸近くの林などに自生します。日本では、関東地方以南で観賞用に栽培され、庭木や公園樹、街路樹としても親しまれています。

形態と生態

フヨウは落葉広葉樹の低木で、高さは1〜4メートルに成長します。寒冷地では冬に地上部が枯れますが、春になると新たな芽を出します。樹皮は灰白色から淡褐色で、滑らかで縦に筋や皮目が見られます。葉は互生し、表面には白い短毛があり、掌状に浅く3〜7つに裂けています。

花は7月から10月初旬にかけて、ピンクや白色で直径10〜15センチ程度の大きさで咲きます。朝に開花し、夕方にはしぼむ一日花ですが、長期間にわたり次々と花を咲かせます。花弁は5枚で、椀状に広がります。雄しべは筒状に癒合し、中心から雌しべが伸び、先端が5つに裂けています。

果実は蒴果で、毛に覆われ、多数の種子を含んでいます。果実が熟すと上向きに5つに裂け、種子を放出します。冬でも果実が残っていることがあります。冬芽は裸芽で、枝と共に星状毛に覆われています。頂芽は枝先に、側芽は枝に互生します。葉痕は心形や楕円形で、維管束痕が多数輪状に並んでいます。

フヨウは同じフヨウ属のムクゲとよく似た花を咲かせますが、樹形が異なります。ムクゲは直線的な枝を上方に伸ばすのに対し、フヨウは多くの枝を横に広げ、こんもりとした樹形になります。また、葉の大きさや雌しべの先端の形状も異なるため、区別できます。フヨウとムクゲは近縁であるため、接ぎ木も可能です。

利用

南西諸島や九州の島嶼部では、フヨウの繊維で編んだ紐や綱が利用されています。特に鹿児島県の下甑島では、フヨウの幹の皮を糸にして織った衣服「ビーダナシ」が作られていました。ビーダナシは軽くて涼しいため重宝され、裕福な家庭の晴れ着として着用されていたようです。現存するビーダナシは、下甑島の歴史民俗資料館に4着のみ展示されており、江戸時代から明治時代にかけて織られたものです。

変種と近縁種

スイフヨウ（酔芙蓉）

スイフヨウ（Hibiscus mutabilis cv. Versicolor）は、朝に白い花を咲かせますが、時間が経つにつれてピンク色に変化する八重咲きの変種です。その色の変化が、まるで酔って赤くなる様子に似ていることから「酔芙蓉」と呼ばれています。なお、「水芙蓉」はハスのことですので、混同しないように注意が必要です。

サキシマフヨウ（先島芙蓉）

サキシマフヨウ（Hibiscus makinoi）は、鹿児島県西部の島から台湾にかけて分布しています。

アメリカフヨウ（草芙蓉）

アメリカフヨウ（Hibiscus moscheutos）は、米国アラバマ州原産の多年草で、7月から9月頃に直径30センチメートル近い大きな花を咲かせます。草丈は50センチメートルから160センチメートルほどで、葉は裂け目が少ない卵形です。多数の交配種があり、様々な形態で栽培されています。日本でも栽培が容易で、一度植えれば毎年花を楽しむことができます。

タイタンビカス

タイタンビカスは、日本で作出された園芸品種で、アメリカフヨウとモミジアオイの交配種です。6月下旬から10月初頭にかけて、15センチメートルほどの花を多数咲かせます。草丈は1〜2メートルで、葉はモミジのような形状をしています。ハイビスカスに似た南国風の花ですが、寒冷地でも屋外での栽培・越冬が可能です。

脚注

[参考文献]

下野敏見 『南九州の伝統文化 Ⅱ（民具と民俗、研究）』南方新社、2005年。
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社、2014年。

関連項目

ムクゲ

外部リンク

Hibiscus mutabilis - Integrated Taxonomic Information System (英語)
フヨウ 植物雑学事典 - 岡山理科大学
フヨウとは｜育て方がわかる植物図鑑 - みんなの趣味の園芸（NHK出版）

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