ハムレット (リスト)

『ハムレット』は、フランツ・リストが作曲した10番目の交響詩であり、作品番号S.104が与えられています。この作品は、ウィリアム・シェイクスピアの有名な戯曲『ハムレット』を題材としており、リストがヴァイマル時代に作曲した最後の交響詩としても知られています。

リストは1856年にヴァイマルで『ハムレット』を観劇し、この経験が作曲のきっかけになったとされています。当初は、この戯曲の上演に際しての序曲として計画されましたが、1858年に完成した後、リスト自身や指揮者のハンス・フォン・ビューローによって「演奏には適さない」と判断されてしまいました。そのため、初演は1876年まで遅れることになりました。現在でも演奏機会は多くないものの、その音楽は聴く者を深く惹きつけます。

この作品は、単に戯曲の物語をなぞるのではなく、主人公ハムレットの内面に焦点を当てています。ベートーヴェンの『コリオラン』序曲やリスト自身の『ファウスト交響曲』と同様に、劇の進行よりも登場人物の心理描写を重視している点が特徴です。リストはハムレットを、復讐の機会をうかがいながらも、疑念や優柔不断に囚われている人物として描き出しています。彼は「蒼ざめて、熱っぽく、天と地の間を漂いながら」苦悩するハムレットの姿を音楽で表現しようとしました。

また、もう一人の重要な登場人物であるオフィーリアについても、リストは友人のアグネス・クリンドワースに手紙を送っています。その中で、オフィーリアはハムレットに愛されていたものの、ハムレットの要求する愛に応えられなかったために、自滅してしまったと述べています。リストは、オフィーリアの狂気を感情の衰弱と捉え、彼女がハムレットの精神レベルについていけなかったために悲劇が起きた、と考えていたようです。

楽曲構成

この交響詩の演奏時間は約14分です。楽器編成は、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、そして弦楽五部となっています。

楽曲は「Sehr langsam und düster」（極めて遅く、陰気に）という指示で始まり、ロ短調、6/4拍子で進行します。しかし、全体的に調性は不安定です。ホルンのゲシュトップフト（弱音器を使い、音を歪ませる奏法）による陰鬱な響きで幕を開け、弦楽器によって演奏される2度上行の動機が、各パートへと受け渡されます。この動機は、後に何度も現れ、楽曲全体の重要な要素となります。音楽は、「schwankend」（不安げに）、「ironisch」（皮肉に）、「stürmisch」（荒れ狂って）といった指示とともに、暗い印象を強めていきます。

やがて、4/4拍子に変わり、「Allegro appassionato ed agitato assai」という指示とともに、テンポを上げてアレグロ部に入ります。ここでは、2度上行を基本とした第一動機と、符点リズムが特徴的な第二動機が絡み合い、激しく展開していきます。その中で、オフィーリアを象徴する「Dolce」の変ニ長調の美しい旋律が、木管楽器によって唐突に二度現れます。この旋律は、当初のスケッチにはなく、改訂の過程で追加されたものです。この旋律は、オフィーリアの儚さを際立たせる役割を果たしています。

激しいトゥッティが静まると、「Moderato lugubre」となり、主要動機が葬送行進曲の形で現れ、力なく終わります。この終わり方は、ハムレットの悲劇的な運命を示唆しているかのようです。

この作品は、リストの交響詩の中でも、特に劇的な構成と内面的な心理描写に重点を置いた作品として、聴き応えがあります。リストは、シェイクスピアの戯曲の持つ深いテーマを、音楽によって見事に表現することに成功しました。

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