ファウスト交響曲

『3人の人物描写によるファウスト交響曲』、通称『ファウスト交響曲』は、フランツ・リストがゲーテの戯曲『ファウスト』に着想を得て作曲した、合唱付きの交響曲です。

作曲の経緯

リストがゲーテの『ファウスト』に出会ったのは、1830年代末、パリでベルリオーズから勧められたことがきっかけでした。彼はこの作品に深く感銘を受け、愛読書としました。1840年代から構想を始め、1854年8月に本格的な作曲を開始、同年10月には300ページに及ぶ第一稿を完成させました。当初の版にはホルンを除く金管楽器や打楽器、ハープは含まれておらず、第三楽章後半の「神秘の合唱」もありませんでした。その後、ヴァイマルのオーケストラで試行錯誤を重ね、楽器編成を拡大、1857年には「神秘の合唱」が追加されました。改訂は重ねられ、最終稿は1880年に完成しました。

初演と献呈

初演は1857年9月5日（または12月5日）、ヴァイマルでゲーテとシラーの記念碑の除幕式典にて、リスト自身の指揮によって行われ、聴衆から熱狂的に迎えられました。楽譜は後にベルリオーズに献呈されています。

楽曲構成と特徴

この交響曲は物語の筋を追うのではなく、3つの楽章で主要登場人物の性格を描写しています。各楽章は、ファウスト、グレートヒェン、メフィストフェレスという3人の人物の内面を音楽的に表現し、8つの主要な主題といくつかの副次的なモチーフが循環的に用いられています。

第1楽章「ファウスト」: ソナタ形式で書かれ、真理を求めるファウストの姿が5つの主題で表現されます。チェロとヴィオラで始まる第一主題は、十二音技法を先取りしたもので、懐疑と煩悶を象徴します。ヴァイオリンによる第二主題は、情熱的で闘争的なファウストを表し、オーボエとクラリネットによる第三主題は愛への欲求を示します。クラリネットとホルンによる第四主題は、自然と人生への愛を歌い、金管による第五主題は英雄的な側面を表現します。
第2楽章「グレートヒェン」: 三部形式で、グレートヒェンの愛らしさ、いじらしさが描かれます。ここでは、グレートヒェンを表す2つの新しい主題が加わります。
* 第3楽章「メフィストフェレス」: ソナタ形式で書かれ、ファウストを否定し、嘲笑し、破滅させようとするメフィストフェレスが描かれます。ここでは、ファウストの主題がパロディ化され、不気味でグロテスクな雰囲気が強調されます。ベルリオーズの『幻想交響曲』における「固定楽想」との類似性も指摘されています。

「神秘の合唱」では、テノール独唱、男声合唱、オルガンが加わり、天の神が悪に打ち勝ち、暗黒から光が差し込むクライマックスを迎えます。合唱なしで終わる版も存在します。

編成

フルート3（ピッコロ持ち替え）、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、ハープ、弦五部。「神秘の合唱」ではテノール独唱、男声合唱、オルガンが加わります。

演奏時間

全曲の演奏時間は、合唱なしの第一稿が約70分、合唱付きの第二稿が約75分です。

録音

実演の機会は少ないものの、多くの指揮者によって録音されています。代表的なものとして、ビーチャム、アルヘンタ、フィッシャー、ホーレンシュタイン、アンセルメ、バーンスタイン、ショルティ、ドラティ、ムーティ、バレンボイム、シノーポリ、ラトル、小泉和裕、インバルなどの指揮による録音があります。

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