ハリケーン・ハンター

ハリケーン・ハンター（Hurricane Hunters）とは、米国において、ハリケーンや台風といった熱帯低気圧の内部へ専用の航空機を用いて進入し、その気象状況を詳細に観測・収集する特別な航空機およびその任務を担う部隊を指す呼称です。彼らの活動は、熱帯低気圧の正確な予報のために極めて重要な役割を果たしています。

活動内容と所属組織

これらの部隊は、北アメリカ周辺の北大西洋、北東太平洋、インド洋、西太平洋といった広範な海域で活動を展開しています。北大西洋ではハリケーンの「目」と呼ばれる中心部に直接飛び込む観測を主に行い、北太平洋地域では中心部だけでなく、その周辺地帯の観測も実施しています。収集されるデータは、熱帯低気圧の勢力や構造、そして最も重要な進路予測に不可欠な情報源となります。

かつてはアメリカ空軍のタイフーン・チェイサーズや米国海軍のタイフーン・トラッカーズといった組織が担っていましたが、現在は主にアメリカ海洋大気庁（NOAA）の士官部隊に再編された「NOAA ハリケーンハンターズ」と、アメリカ空軍第53天候偵察中隊（通称「ハリケーン・ハンター」として広く知られています）が任務を遂行しています。NOAAの航空機運用センターはフロリダ州タンパのマクディール空軍基地に併設され、空軍基地からの支援を受けています。一方、第53天候偵察中隊はミシシッピー州ビロクシのキースラー空軍基地を拠点としています。

重要性と観測機材

気象観測の手段として気象衛星が天気予報に革命をもたらした現代においても、ハリケーン・ハンターの活動は変わらず重要視されています。これは、気象衛星だけでは熱帯低気圧の中心部の正確な気圧や風速といった内部情報を直接測定することが難しいためです。ハリケーン・ハンターは、衛星画像では捉えきれない熱帯低気圧形成の兆候を早期に察知し現場へ急行することに加え、実際に中心部で収集した高精度な気象データを提供することで、熱帯低気圧の発達度合いや移動方向の予測精度を大幅に向上させています。収集された詳細な観測データは、フロリダ州にあるNOAA国立ハリケーンセンターへリアルタイムで送信され、衛星データと合わせて最新のハリケーン予報に活用されています。

使用される航空機は、この特殊な任務のために改造・強化されています。主な機体には、アメリカ空軍のロッキードWC-130Jや、NOAAのWP-3Dオライオン、高高度の風観測を行うガルフストリーム IV-SPなどがあります。これらの機体には、高性能ドップラーレーダー、気圧や風速などを測定し投下する専用のGPSゾンデ、観測データを即座に送信するための最新通信機器などが搭載されています。特にWC-130Jのコックピットはグラスコックピット化されるなど、最新のアビオニクス機器への換装も進んでいます。

観測方法

ハリケーンの中心部への観測飛行は、通常、高度300メートルから3000メートルの間で行われます。機体は熱帯低気圧の中心である「目」に向けて直線的に進入し、最も強い風雨をもたらす「目の壁」を通過します。中心部を抜けた後、270度旋回して再び中心部へ向かうという手順を繰り返します。これにより、熱帯低気圧の目を中心に、飛行軌跡が十字型を描きます。この十字飛行を複数回（通常4回）繰り返すことで、全体の飛行軌跡は四つ葉のクローバーのような形状となり、このフライトパターンによって目の正確な位置や中心気圧、風速などのデータを多角的に収集します。一回の観測ミッションは平均で11時間にも及び、そのうち約6時間は熱帯低気圧の内部での飛行となります。

歴史と主な出来事

航空機を用いたストーム観測の概念は、1930年代初頭にW.L.ファンズワース大尉によって提案されたのが始まりです。このアイデアは、当時の合衆国気象局（現在のNOAAの前身）の支援を受け、「ストームパトロールビル」として法制化され、1936年 6月15日に成立しました。

世界で初めて観測目的でハリケーン内部へ飛行機が進入したのは、第二次世界大戦中の1943年、テキサス州ヒューストンを襲った「サプライズ・ハリケーン」の際でした。これは、訓練飛行場でのパイロット間の議論がきっかけとなり、主任教官であったジョー・ダックワース大佐がT-6練習機を自ら操縦し、ハリケーンの目へ突入して無事帰還した出来事に端を発します。この成功が、航空機からのハリケーン観測が可能であることを証明し、以降、不定期ながら観測飛行が行われるようになりました。「ハリケーン・ハンター」という名称が初めて公式に使用されたのは1946年のことで、これが今日まで受け継がれています。

危険を伴う任務であるため、残念ながら事故も発生しています。1974年10月には、台風観測のためにフィリピンから出発したWC-130H（コールサイン「スワン38」）が、台風の目へ2回目の突入を行う直前に消息を絶ちました。機体や乗員の痕跡は発見されず、乗員6名全員が任務中の殉職とされました。これは、ハリケーン・ハンター任務における数少ない航空機喪失事故の一つであり、WC-130としては唯一の事例です。また、1989年にはハリケーン・ヒューゴ観測中のWP-3Dが激しい乱気流に巻き込まれ、エンジン火災が発生する事故がありましたが、機体は帰還に成功しました。この事故は、観測方法の見直しや機体の燃料供給システムの改善につながりました。

日本でも、航空機による直接突入ではなく、上空から投下式ゾンデを用いる観測案が検討されたことがあります。過去には、A-20、B-17、B-24、B-25、B-29、B-50、B-47、ロッキードコンステレーションなど、多種多様な機体が観測任務に投入されていました。

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