ハンガリー狂詩曲

ハンガリー狂詩曲：リストが生み出した情熱の旋律

フランツ・リストが作曲したピアノ独奏のための作品集『ハンガリー狂詩曲』は、全19曲からなる壮大な作品です。1853年に最初の15曲が出版され、その後、1882年から1885年にかけて4曲が追加されました。今日では、リストの全盛期に書かれた最初の15曲が頻繁に演奏され、後の4曲は知名度が低い傾向にあります。

ハンガリーらしさへの追求と誤解

各曲は、ハンガリーの伝統音楽であるヴェルブンコシュ（チャールダーシュの前身）の影響を強く受けており、複数のテンポを持つ楽節が組み合わさった独特の構成となっています。リストは、これらの曲にハンガリーの古来からの民謡を主題として取り入れたと主張していましたが、実際には当時ロマ（ジプシー）の楽団で演奏されていた曲であったとされています。この点については、発表当時からリストの誤解を指摘する声があったと伝えられています。ドイツ系ハンガリー人であるリストの強い愛国心は、後年、ベルトークからの批判を受けるなど、複雑な側面を持っていました。

演奏の難しさ

リスト自身が卓越したピアニストであったことから、『ハンガリー狂詩曲』は、高度な演奏技術を必要とする難曲として知られています。華麗な技巧と情熱的な旋律は、演奏家の高い力量を試す試金石となっています。

第2番：最も有名な狂詩曲

19曲の中でも、第2番（嬰ハ短調）は圧倒的な人気を誇ります。特に、曲の終盤のカデンツァは、ラフマニノフやアムランなど、多くのピアニストが自作のカデンツァを演奏することで知られています。ホロヴィッツは、独自の編曲で演奏することで有名です。また、アメリカではアニメーション作品、特に『トムとジェリー』の「ピアノ・コンサート」でこの曲が使用されていることで広く知られるようになりました。この他にも、ディズニー映画やルーニー・テューンズなどでも使用されています。

作品一覧

『ハンガリー狂詩曲』は、全19曲から構成されています。各曲の調性は様々で、それぞれに異なる魅力を持っています。特に有名な第2番に加え、第5番「悲劇的な英雄の詩」、第9番「ペシュトの謝肉祭」、第15番「ラーコーツィ行進曲」などは、それぞれ独自の世界観と魅力を放っています。以下に、全曲の一覧を示します。

1. 嬰ハ短調
2. 嬰ハ短調
3. 変ロ長調
4. 変ホ長調
5. ホ短調（悲劇的な英雄の詩）
6. 変ニ長調
7. ニ短調
8. 嬰ヘ短調
9. 変ホ長調（ペシュトの謝肉祭）
10. ホ長調（前奏曲）
11. イ短調
12. 嬰ハ短調
13. イ短調
14. ヘ短調
15. イ短調（ラーコーツィ行進曲）
16. イ短調
17. ニ短調
18. 嬰ヘ短調
19. ニ短調（アーブラーニ・コルネールの『高雅なチャールダーシュ』による）

また、第20番は未完の作品として残されています。

管弦楽版

ピアノ版（S.244）から、リスト自身やフランツ・ドップラーによって、6曲がオーケストラ用に編曲されました（S.359）。さらに、第2番については、カール・ミュラー＝ベルクハウスによる編曲版も存在します。これらの編曲版は、ピアノ版とは異なる魅力を持ち、オーケストラの豊かな音色で『ハンガリー狂詩曲』の世界観をより一層広げています。編曲者や版によって、楽曲の調性や楽器編成、演奏時間などが異なる場合があります。

特に第2番の管弦楽版は、ドップラーとミュラー＝ベルクハウスによる2つの編曲版が存在し、それぞれに特徴があります。ドップラー版はトランペットで主題が始まるのに対し、ミュラー＝ベルクハウス版はハープが加えられています。カラヤンやドラティなど、多くの指揮者がこれらの編曲版を録音しています。しかし、レコードやCDでは、編曲者の表記が混乱している場合があり、正確な情報に注意が必要です。

まとめ

『ハンガリー狂詩曲』は、リストの才能とハンガリーへの愛国心が結実した傑作です。ピアノ版、オーケストラ版共に高い人気を誇り、アニメーション作品などへの使用を通して、広く世界にその魅力を伝えています。その演奏の難しさ、多様な編曲版の存在、そしてアニメ作品との意外な繋がりなど、様々な側面から、この作品の魅力を再発見することができます。

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