ハンス・ペルツィヒ

ハンス・ペルツィヒ（Hans Poelzig）は、1869年4月30日にドイツの首都ベルリンで生まれ、1936年6月14日にその生涯を終えた、ドイツを代表する芸術家であり建築家です。

彼は、特に20世紀初頭のドイツ建築において、表現主義と新即物主義という対照的な二つの潮流を結ぶ存在として重要な位置を占めています。初期には表現主義的な感性に基づき、有機的で情感豊かなフォルムを追求しましたが、後には規則的なパターンを用いた表層的な造形や、機能性を重視する新即物主義的な傾向も強く示すようになりました。特に、エルンスト・マイと並んで建築における新即物主義の代表的人物として評価されています。

ペルツィヒの経歴は多岐にわたります。故郷ベルリンで学んだ後、ブレスラウで美術教師として教鞭を執り、芸術教育の分野でも活動しました。その後、ベルリン工科大学で建築を教える教授となり、多くの後進を育成しました。

建築家としての実務では、劇場、工場、オフィスビル、給水塔など、幅広い種類の建築を手がけています。彼の代表作の一つが、1919年に「劇場の魔術師」と称された演出家マックス・ラインハルトの依頼で設計されたベルリン大劇場（Großes Schauspielhaus）です。これは、既存のサーカス小屋を改修するという制約の中で実現されたプロジェクトでしたが、観客席からの眺望を最大限に考慮した設計は高く評価され、劇場建築の優れた例として挙げられます。しかし、この劇場は後のナチス政権によって「退廃芸術」と見なされ、内装が破壊されるという悲運に見舞われました。さらに、地盤沈下の問題も抱え、残念ながら1988年に解体されています。

その他の主要な作品としては、ポーランド領となったポズナン（旧ポーゼン）に建設された給水塔、ルーバンの化学工場、ベルリンのラジオ放送局ビルなどが挙げられます。特に、1931年に完成したフランクフルト・アム・マインのIGファルベン本社ビルは、大規模なオフィス建築として知られ、その後のモダニズム建築にも影響を与えたとされています。また、国際的なコンペティションであったソビエト宮殿の建設計画にも応募するなど、その活動は広範囲に及びました。

しかし、1933年にナチスが政権を掌握すると、その芸術思想が体制に受け入れられず、教育者としての職を失いました。トルコのアンカラ大学で教えるためにドイツを離れる準備をしていた矢先の1936年、ベルリンで死去しました。

ハンス・ペルツィヒは、激動の時代において、表現主義の奔放さと新即物主義の合理性を融合しようと試みた、特異な才能を持った建築家でした。彼の作品は、当時のドイツ建築の多様性と複雑性を今に伝えています。

関連項目
表現主義 (建築)
新即物主義（建築）

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