ハンブルク大火

1842年 5月5日から8日にかけて、北ドイツの主要都市ハンブルクは未曽有の大規模火災に見舞われました。これは市の歴史に深く刻まれ、「ハンブルク大火」、あるいは単に「大火災（der Große Brand）」として知られています。旧市街の広範囲が灰燼に帰したこの火災は、約50キロメートル離れた場所からも炎が見えるほどでした。

経過

火災は1842年 5月5日午前1時頃、ニコライフレートに面するダイヒ通り42番地にあるタバコ製造業者の家で発生したとされていますが、正確な原因は今も不明です。夜警によって火はすぐに発見されましたが、急行した消防隊は消火と延焼阻止に失敗しました。当時の異常な乾燥と無風状態という悪条件が重なったためです。炎は一時、ニコライフレートの対岸、クレモン地区にも迫りましたが、そこでの小さな火災は早期に鎮火されました。これにより、火の勢いは主に北と西へと向かうことになります。当初、火災の拡大を止めるための発破案は反対されました。

昇天日にあたる5月5日の朝には、ニコライ地区のかなりの部分がすでに炎に包まれていました。聖ニコライ中央教会では朝の礼拝が行われ、昼まで最後の礼拝が続けられましたが、午後4時頃、火は塔に燃え移り、多大な努力もむなしく塔は焼け落ちました。伝えられるところによれば、鐘は熱によって最後の音を響かせ、その後、鐘楼が崩落して身廊に火をつけたとされています。
夕方には、炎は聖ニコライ教会の北東にあるトロースト橋近くの旧市庁舎に迫りました。多くの書類が運び出された後、庁舎の爆破が試みられましたが、これは不完全な結果に終わりました。爆破されたがれきが逆に炎の燃料となり、防火帯を超えて燃え広がってしまったのです。

翌5月6日には、火災はさらに北へ拡大し、現在の証券取引所や市庁舎がある一帯を飲み込みました。前年に移転したばかりの新証券取引所も一時的に四方を炎に囲まれながらも、奇跡的に焼失を免れました。同日晩、炎はゲンゼマルクトに達しましたが、発破などの努力により、それ以上の西側への延焼は食い止められました。
火はその後、東や北へと広がりました。5月7日には、絶望的な消火活動にもかかわらず、聖ペトリ中央教会が炎上し、崩壊しました。同様にゲルトゥルーデ礼拝堂も失われ、こちらは再建されませんでした。一方、聖ヤコビ中央教会を含むさらに東の地域は被害を免れました。最終的に、内アルスター湖とグロッケンギーサーヴァルの地点で延焼が阻止され、5月8日にクルツェ・ミューレン通りで最後に焼失した家屋を最後に火勢は衰えました。このクルツェ・ミューレン通りからバリンダムへ続く道は、現在「ブランツエンデ（火災の終わり）」と呼ばれ、この歴史的な出来事を今に伝えています。

この間、アルトナ、リューベック、キールなど、近隣の多くの都市や地域から放水隊が駆けつけ、消火活動に協力しました。火災鎮火から一周年にあたる1843年 5月8日には、評議会の提案により、協力者に対して「心からの感謝」が表明され、溶解した教会の鐘などで作られた記念硬貨やメダルが贈られました。特に貢献の大きかったブレーメン市長ヨハン・スミットなどには名誉市民権が贈られています。

また、この大火は、ハンブルクの歴史におけるもう一つの重要な出来事にも影響を与えました。ベルゲドルフへ向かうハンブルク初の鉄道が、1842年5月7日に運行を開始する予定でしたが、この火災により延期を余儀なくされたのです。開業初日の列車は賓客ではなく、燃える街から逃れる避難民を運びました。計画通りの運行は5月17日に静かに始まりました。

影響

ハンブルク大火は当時の市域の実に4分の1以上を破壊しました。51名の尊い命が失われ、20,000人以上が住む場所を失いました。破壊された建物は、約1700棟の家屋、102棟の倉庫、3つの教会（聖ニコライ、聖ペトリ、ゲルトゥルーデ）、市庁舎、公文書館、旧証券取引所など、多岐にわたります。

被災した建物の補償を担当したハンブルク火災保険会社は、保有物件の20%が破壊されたと発表し、その支払いに40年もの歳月を要しました。火災後数年間、焼け跡や、不足した住居や商業施設を補うために同じ場所に建てられた仮設の建物が街の景観を特徴づけました。
一方、この壊滅的な被害は、市の中心部を一括して再構成し、都市インフラを近代化するまたとない機会をもたらしました。復興計画は火災発生直後の1842年5月中には始まり、イギリスの技術者ウィリアム・リンドリーの監督のもと、ハンブルクの建築家アレクスィ・ドゥ・シャトーヌフが中心的な役割を果たしました。ゴットフリート・ゼンパーの提案も設計に影響を与えています。特に大きく変貌したのは、市の新しい中心となるクライネ・アルスター周辺です。運河（フレート）が埋め立てられ、クライネ・アルスターは現在の長方形の形に整備され、新しい市庁舎とその前にあるラートハウスマルクト（市庁舎前広場）のための敷地が確保されました。現在のハンブルク市庁舎が完成し開庁するまでには、火災から44年の歳月がかかりました。

大火後の建築に特徴的なのは、擬古典主義的なスタイルや、イタリアの都市を模倣したデザインです。印象的な半円アーチ様式（ルントボーゲンシュティール）は、郵便局やニーミッツ薬局の外観に見られました。現在でも、アレクスィ・ドゥ・シャトーヌフ設計の旧郵便局舎やアルスターアーカーデンなど、当時の建築の一部を見ることができますが、全体としては残存例は多くありません。
都市内部の水道施設は大部分が破壊され、以前のような揚水装置を利用したものは再建されず、代わりにローテンブルクスオルトに新しい給水施設が建設されました。アルスター湖に面した水車も被害を受けましたが、技術的に旧式化していたにも関わらず、郵便局通りには地下配管を通して内アルスター湖から給水する新しい水車が新築されました。
アルスター湖を堰き止める堤防の水位は下げられ、ウーレンホルストやハーヴェステフーデといった地域が住宅地として開発可能となりました。これにより、市壁の後退が進み、1860年には長らく続いた市門の閉鎖制度が廃止されることになります。また、都市の排水のため、エルベ川へ向かう下水道が整備され、従来のオイルランプに代わってガス灯が導入されるなど、インフラの近代化が図られました。

破壊された3つの教会のうち、再建されたのは2つです。聖ペトリ教会はほぼ元の姿で再建され、現在に至ります。一方、旧聖ニコライ教会跡には、ドイツでも有数の新ゴシック式教会建築として新しい教会堂が建てられました。その尖塔は長らくハンブルクで最も高い建造物でした。新しいニコライ教会は第二次世界大戦で大きな被害を受け、現在は塔と一部の外壁のみが残されています。
ハンブルクの周辺地域にとっても、この大火は大きな経済的影響をもたらしました。復興に伴う大規模な建設需要により、エルベ川やオーステ川沿いの湿地帯では煉瓦製造業が著しく発展しました。

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