ハープシコード組曲第2集 (ヘンデル)
ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが手掛けた『ハープシコード組曲第2集』は、正式にはフランス語で《Suites de pièces pour le clavecin, second volume》と呼ばれ、HWV 434から442までの番号が付けられています。この曲集は、ハープシコード（チェンバロ）の独奏のために書かれた作品で、全9曲から成り立っています。内訳は7つの組曲と、独立した2曲のシャコンヌです。これらの楽曲は、ロンドンの出版業者ジョン・ウォルシュによって1733年に刊行されました。
この第2集の出版には複雑な経緯がありました。先に1720年に第1集が出版されていますが、ウォルシュは1732年頃、ヘンデルの許諾を得ずに第2集を世に送り出しました。これは、彼がかつて別の名義で出版した海賊版のハープシコード曲集を基に、第1集と重複する曲を差し替えたもので、楽章の構成や音符に多くの間違いが見られました。ウォルシュはさらに翌年の1733年にこの内容を改訂し、現在の『ハープシコード組曲第2集』として知られる版を出版したのです。しかし、この改訂版における楽章の配置が、ヘンデル自身の意図をどの程度反映しているのかについては、現在も研究者の間で議論が続いています。
作品が作曲された正確な時期は特定されていませんが、第1集がヘンデルがイギリスのキャノンズに滞在していた1717年頃の作品を中心に構成されているのに対し、第2集にはヘンデルがドイツで活動していた初期の時期（1710年以前）に書かれた曲が多く含まれていると考えられています。
この曲集には、以下の9曲が収められています。
第1番 変ロ長調 HWV 434
前奏曲（4⁄4拍子） - アルペッジョを主体とした曲
ソナタ（4⁄4拍子）
エアと5つの変奏曲（4⁄4拍子）
メヌエット（3⁄4拍子） - ト短調
第2番 ト長調 HWV 435
21の変奏つきシャコンヌ（3⁄4拍子）
第3番 ニ短調 HWV 436
アルマンド（4⁄4拍子）
Allegro（3⁄8拍子）
エア (Lentement)（3⁄4拍子）
ジーグ (Presto)（12⁄8拍子）
メヌエットと3つの変奏（3⁄4拍子）
第4番 ニ短調 HWV 437
前奏曲（4⁄4拍子）
アルマンド（4⁄4拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
サラバンドと2つの変奏（3⁄2拍子）
ジーグ（12⁄16拍子）
第5番 ホ短調 HWV 438
アルマンド（4⁄4拍子）
サラバンド（3⁄4拍子）
ジーグ（24⁄16拍子）
第6番 ト短調 HWV 439
アルマンド（4⁄4拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
サラバンド（3⁄2拍子）
ジーグ（12⁄8拍子）
第7番 変ロ長調 HWV 440
アルマンド（4⁄4拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
サラバンド（3⁄4拍子）
ジーグ（3⁄8拍子）
第8番 ト長調 HWV 441
アルマンド（4⁄4拍子）
Allegro（2⁄2拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
エア (Presto)（4⁄4拍子）
メヌエット（3⁄8拍子）
ガヴォットと5つの変奏（2⁄2拍子）
ジーグ（12⁄8拍子）
第9番 ト長調 HWV 442
* 62の変奏つきシャコンヌ（3⁄4拍子）。アレグロ ヘ長調 HWV 488（組曲第1集第2番 HWV 427にも含まれる）を前奏曲とする異稿も存在します。
この曲集の中でも特に広く知られている楽曲がいくつかあります。まず、第1番に含まれる「エアと5つの変奏曲」の旋律は、後にヨハネス・ブラームスが1861年に作曲した『ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ』作品24の主題として採用され、非常に有名になりました。また、第1番のト短調メヌエットは、ピアニストのヴィルヘルム・ケンプによるピアノ編曲版が単独で演奏される機会が多くあります。
最も耳にする機会が多いのは、第2番に収められた「21の変奏つきシャコンヌ」でしょう。この曲の基盤となっている低音の進行パターンは、ヘンリー・パーセルまで遡ることができる古いもので、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの壮大な『ゴルトベルク変奏曲』や、ゴットリープ・ムッファトの『コンポニメンティ・ムジカーリ』の終曲を飾るシャコンヌなど、他のバロック期作曲家も同様のバス主題を用いています。
さらに、第4番の「サラバンド」の旋律も非常に印象的で有名です。この曲は、レナード・ローゼンマンが管弦楽用に編曲したものが、1975年のスタンリー・キューブリック監督作品『バリー・リンドン』の主要なテーマ曲として使用され、広く知られることになりました。近年では、2019年の日本映画『翔んで埼玉』でもこのサラバンドが用いられています。興味深いことに、1984年のアニメーション映画『風の谷のナウシカ』で使われた楽曲「ナウシカ・レクイエム」には、このヘンデルのサラバンドに非常によく似た旋律が登場します。
このように、『ハープシコード組曲第2集』は、出版経緯の複雑さや作曲年代の多様性を含みつつも、特に有名な数曲が時代やジャンルを超えて影響を与え続けている、ヘンデルの鍵盤楽器作品における重要な位置を占める曲集と言えるでしょう。
この第2集の出版には複雑な経緯がありました。先に1720年に第1集が出版されていますが、ウォルシュは1732年頃、ヘンデルの許諾を得ずに第2集を世に送り出しました。これは、彼がかつて別の名義で出版した海賊版のハープシコード曲集を基に、第1集と重複する曲を差し替えたもので、楽章の構成や音符に多くの間違いが見られました。ウォルシュはさらに翌年の1733年にこの内容を改訂し、現在の『ハープシコード組曲第2集』として知られる版を出版したのです。しかし、この改訂版における楽章の配置が、ヘンデル自身の意図をどの程度反映しているのかについては、現在も研究者の間で議論が続いています。
作品が作曲された正確な時期は特定されていませんが、第1集がヘンデルがイギリスのキャノンズに滞在していた1717年頃の作品を中心に構成されているのに対し、第2集にはヘンデルがドイツで活動していた初期の時期（1710年以前）に書かれた曲が多く含まれていると考えられています。
この曲集には、以下の9曲が収められています。
第1番 変ロ長調 HWV 434
前奏曲（4⁄4拍子） - アルペッジョを主体とした曲
ソナタ（4⁄4拍子）
エアと5つの変奏曲（4⁄4拍子）
メヌエット（3⁄4拍子） - ト短調
第2番 ト長調 HWV 435
21の変奏つきシャコンヌ（3⁄4拍子）
第3番 ニ短調 HWV 436
アルマンド（4⁄4拍子）
Allegro（3⁄8拍子）
エア (Lentement)（3⁄4拍子）
ジーグ (Presto)（12⁄8拍子）
メヌエットと3つの変奏（3⁄4拍子）
第4番 ニ短調 HWV 437
前奏曲（4⁄4拍子）
アルマンド（4⁄4拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
サラバンドと2つの変奏（3⁄2拍子）
ジーグ（12⁄16拍子）
第5番 ホ短調 HWV 438
アルマンド（4⁄4拍子）
サラバンド（3⁄4拍子）
ジーグ（24⁄16拍子）
第6番 ト短調 HWV 439
アルマンド（4⁄4拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
サラバンド（3⁄2拍子）
ジーグ（12⁄8拍子）
第7番 変ロ長調 HWV 440
アルマンド（4⁄4拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
サラバンド（3⁄4拍子）
ジーグ（3⁄8拍子）
第8番 ト長調 HWV 441
アルマンド（4⁄4拍子）
Allegro（2⁄2拍子）
クーラント（3⁄4拍子）
エア (Presto)（4⁄4拍子）
メヌエット（3⁄8拍子）
ガヴォットと5つの変奏（2⁄2拍子）
ジーグ（12⁄8拍子）
第9番 ト長調 HWV 442
* 62の変奏つきシャコンヌ（3⁄4拍子）。アレグロ ヘ長調 HWV 488（組曲第1集第2番 HWV 427にも含まれる）を前奏曲とする異稿も存在します。
この曲集の中でも特に広く知られている楽曲がいくつかあります。まず、第1番に含まれる「エアと5つの変奏曲」の旋律は、後にヨハネス・ブラームスが1861年に作曲した『ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ』作品24の主題として採用され、非常に有名になりました。また、第1番のト短調メヌエットは、ピアニストのヴィルヘルム・ケンプによるピアノ編曲版が単独で演奏される機会が多くあります。
最も耳にする機会が多いのは、第2番に収められた「21の変奏つきシャコンヌ」でしょう。この曲の基盤となっている低音の進行パターンは、ヘンリー・パーセルまで遡ることができる古いもので、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの壮大な『ゴルトベルク変奏曲』や、ゴットリープ・ムッファトの『コンポニメンティ・ムジカーリ』の終曲を飾るシャコンヌなど、他のバロック期作曲家も同様のバス主題を用いています。
さらに、第4番の「サラバンド」の旋律も非常に印象的で有名です。この曲は、レナード・ローゼンマンが管弦楽用に編曲したものが、1975年のスタンリー・キューブリック監督作品『バリー・リンドン』の主要なテーマ曲として使用され、広く知られることになりました。近年では、2019年の日本映画『翔んで埼玉』でもこのサラバンドが用いられています。興味深いことに、1984年のアニメーション映画『風の谷のナウシカ』で使われた楽曲「ナウシカ・レクイエム」には、このヘンデルのサラバンドに非常によく似た旋律が登場します。
このように、『ハープシコード組曲第2集』は、出版経緯の複雑さや作曲年代の多様性を含みつつも、特に有名な数曲が時代やジャンルを超えて影響を与え続けている、ヘンデルの鍵盤楽器作品における重要な位置を占める曲集と言えるでしょう。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。