バウルチ

バウルチの役職とその歴史

バウルチは、モンゴル帝国におけるカーンの親衛隊、ケシクテイの一職であり、主にカーンの飲食を担当する役割を持っていました。この職掌は、モンゴル語で「主膳の司」と訳され、古くからの伝統と地位を有していました。バウルチは、自ら料理を行い、カーンに食事を奉上する者を指し、彼らの重要な役割は『元史』の記述にも見られます。

語源とその変遷

バウルチという言葉の起源は、古テュルク語の「baur」や「baγur」に遡ります。この語は「肝臓」を指し、そこで転じて「美味な食物」という意味を持つようになりました。さらに、接尾語「-či」が加わることで「料理人」や「司厨長」といった意味を持つように変化していきました。実際、4世紀には北魏において、貴人の食事を作る役職「附真（bawurčin）」が存在していたことも知られています。

バウルチの任命と重要性

『モンゴル秘史』によると、チンギス・カンの時代に初めて任命されたバウルチは、オングル、スイケトゥ・チェルビ、カダアン・ダルドルカンの3名でした。この際、彼らには「朝の食べ物を欠かしてはならない、夕べの飲み物を怠けてはならない」という重要な言葉が与えられました。バウルチは皇帝の命に直接関わるため、その裏切りは即時の危険を伴い、即ちカーンの死に直結するものでした。このことから、代々選ばれるバウルチは特に信任の厚い者が選抜されていました。

元朝におけるバウルチと宣徽院

元宗ウルスの時代になると、饗宴や飲食を所管する機関、「宣徽院」が設立されました。この機関は事実上バウルチの役割を引き継いだものであり、当時のカーンのバウルチがその長を務める形が採られました。また、大司農司の設立にもバウルチの一員であったボロトが関与しており、後の長官もバウルチが任命されるなど、その影響力は続きました。

歴代にわたるバウルチ

歴代のバウルチには様々な人物がおり、その中でも特に注目されるのは以下のような人々です。

• - セチェウル：コルラス部に属し、チンギス・カンの父イェスゲイから仕えた老臣。
• - オングル：初代のバウルチとしてチンギス・カンによって任命された。
• - スイケトゥ・チェルビ：オングルと同様に初代のバウルチの一人。
• - カダアン・ダルドルカン：チンギス・カンによる初代のバウルチの一人。
• - ドロアダイ：チンギス・カン直属の千人隊長であり、後にコデン・ウルスに所属。
• - チャラン・バウルチ：モンケ・カーンに仕えたが、帝位継承戦争で敗れ処刑。
• - ボロト：クビライに仕えていたが、政変で亡命。
• - テケ平章：ウイグル人で、クビライの下で宣徽院の長を務めた。
• - パーディシャー：大元ウルス中期に成宗や武宗に仕えました。

バウルチの役職は、モンゴル帝国の食文化とともに発展し、その地位と責任は非常に高く評価されました。彼らの存在は、カーンの生活を支えるために不可欠なものであり、その信頼性は限りなく重要であったのです。

もう一度検索