オングル

オングル・ノヤン：チンギス・カンに仕えたバヤウト部出身の千人隊長

オングル・ノヤン（生年不詳 - 没年不詳）は、モンゴル帝国に仕えた千人隊長の一人で、ケフリン・バヤウト部出身です。『元朝秘史』では汪古児(wānggŭér)、『集史』などのペルシア語史料ではاونگور نویان(ūngūr nūyān)と記されています。

バウルチとしての活躍

オングルはバウルチ（主膳の司）を務めていたことでも知られています。『聖武親征録』は甕古児宝児赤(Önggür Baurči>wènggŭér bǎoérchì)、『集史』はاونگور باورچی(Önggür Baurči>ūngūr bāūrchī)とも表記しています。

生い立ちとチンギス・カンへの帰順

『集史』「バヤウト部族志」によると、バヤウト部は「ジェデイ・バヤウト（ジダ河のバヤウト）」と「ケフリン・バヤウト（草原のバヤウト）」の2つの集団に分かれており、オングルはケフリン・バヤウトの出身でした。当時、バヤウト部はモンゴル・ウルスの中でも弱小な集団で、他の有力氏族に隷属しており、オングルの率いる集団はモンゲトゥ・キヤン(Mönggetü Qiyan)の支配する「キヤト・チャンシウト氏」に従っていました。『元朝秘史』によると、オングル率いるバヤウト集団は、モンゲトゥの息子チャンシウダイ(Čangši'udai)が率いるチャンシウト氏とともにチンギス・カンの勢力に投じました。

第一次即位直後のチンギス・カンの勢力は「13翼」から構成されており、モンゲトゥ率いるチャンシウト氏とオングル率いるケフリン・バヤウトはその内「第8翼」を構成しました。「13翼」の中で、チンギス・カンに対して反抗的な者も多い中、「第8翼」のみは最初から最後までチンギス・カンに忠実でした。

チンギス・カンの側近として

オングルは、チンギス・カンが最初に定めたケシク（親衛隊）のバウルチの一人でした。『元朝秘史』には、コンゴタン部のスイケトゥ・チェルビ、スニト部のカダアン・ダルドルカンら3人が、チンギス・カンの言葉とともに最初のバウルチに任ぜられたと記されています。一方、『集史』「バヤウト部族志」では、『元朝秘史』と異なり、ベスト部のクチュグルが当初バウルチを務めていましたが高齢のため退き、次はフーシン部のボロクルがバウルチとなったものの右翼万人隊長となって軍務が忙しくなったため、代わりにオングルがバウルチの職に就いたと記しています。

金朝の国庫検視

『元朝秘史』や『集史』、『聖武親征録』などが伝えるところによると、1215年に金朝の首都中都を攻略したチンギス・カンは、シギ・クトクとオングル、アルカイ・カサルの3名に金朝の帑蔵（国庫）を検視するよう命じました。この時、金朝留守のカダはオングルら3名に金幣を差し出し、オングルとアルカイ・カサルは受け取りましたが、シギ・クトクは受け取りませんでした。後にこの一件を知ったチンギス・カンはシギ・クトクを褒め称え、オングルとアルカイ・カサルらを叱責しました。

その後

この後、オングルは史料上に現れることがなくなり、子孫についても記録がありません。オングルの子孫について史料上に一切言及がないのは、上述した中都での一件が影響しているのではないかと考えられています。

参考文献

志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
宮紀子『モンゴル時代の「知」の東西』名古屋大学出版会、2018年
村上正二訳注『モンゴル秘史 1巻』平凡社、1970年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
* 村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

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