バガモヨ

バガモヨ：歴史の波間に揺れる港町

タンザニアのプワニ州、インド洋沿岸に位置する港町バガモヨは、対岸のザンジバル島と向かい合う地理的な利点から、古くから東西交易の要衝として栄えてきました。かつてドイツ領東アフリカの首都でもあったこの都市は、現在約3万人が暮らしています。その名前はスワヒリ語で「心をおいていく」という意味を持ち、かつての奴隷貿易における悲痛な歴史を示唆しているとも言われています。

古代からの交易とアラブ商人の影響

バガモヨ周辺地域には、古くから交易を目的としたアラブの人々が訪れていました。その歴史を物語るのが、バガモヨの海岸線から南に約5キロメートル離れた場所にあるカオレ遺跡です。この遺跡は13世紀頃に栄えた都市国家の跡であり、当時のモスクなど建築物の痕跡が今も残っています。カオレが衰退した後、18世紀半ばまでバガモヨは比較的小規模な交易地にとどまり、住民はゴムや魚、塩などを取引して生活を営んでいました。18世紀末になると、オマーンから移住してきたアラブの人々がこの地に定着します。彼らは塩の交易に対して税を課すことで力をつけ、後のバガモヨの発展の基礎を築きました。

奴隷貿易の悲しい拠点

19世紀中盤、オマーンの国王サイイド・サイードが対岸のザンジバルに王都を移したことで、バガモヨはザンジバルと内陸部を結ぶ主要な交易港としての重要性を増しました。特に悲劇的な歴史として知られるのが奴隷貿易です。タンガニーカ湖畔やヴィクトリア湖畔といった内陸深部から、象牙と共に捕えられた奴隷たちが、長い苦難の旅を経てバガモヨに到着しました。彼らはここで一時的に集結させられた後、船に乗せられてザンジバルへと輸出されていったのです。バガモヨという名前が「心をおいていく」という意味を持つことには、この地で故郷や家族と永遠に別れなければならなかった奴隷たちの悲痛な叫びが込められているという解釈と、長旅を終えた奴隷商人たちが「ここでようやく一息つける」という安堵の思いを表しているという二通りの解釈が存在します。1873年にイギリスがザンジバル・スルターン国に圧力をかけ、奴隷貿易は公式には禁止されましたが、その後も19世紀末に至るまで秘密裏に続けられていたとされています。

内陸探険の出発点

バガモヨは、内陸部への交易路の玄関口であったことから、ヨーロッパからの探険家や宣教師たちにとっても重要な拠点となりました。キリスト教の布教を目指す宣教師たちがここからアフリカ内陸部へと向かったほか、リチャード・フランシス・バートン、ジョン・ハニング・スピーク、ヘンリー・モートン・スタンリーといった著名な探険家たちが、未知の内陸を探るための出発点としてバガモヨを利用しました。彼らの探険記には、この港町の様子がしばしば描かれています。

植民地時代の首都、そして衰退

1886年、ドイツが東アフリカに進出した際、バガモヨはドイツ領東アフリカの最初の首都に定められました。しかし、バガモヨの港は水深が浅く、大型の蒸気船が十分に接岸できないという欠点がありました。このため、わずか5年後の1891年には、より港湾条件の優れた南方のダルエスサラームへと首都機能が移転されます。さらに、1905年にはダルエスサラームと内陸部を結ぶ鉄道の建設計画が始まり、やがて鉄道が開通するに至って、バガモヨは主要な交易ルートから外れてしまい、その商業的重要性は急速に失われ、衰退への道をたどることとなりました。

現在のバガモヨ

歴史的な役割を終えた後も、バガモヨは独自の文化と産業を育んでいます。現在、この町にはアフリカの伝統芸術を教えるバガモヨ芸術大学が置かれており、多くの学生が国内外から集まっています。また、伝統的なダウ船を建造する工房も健在です。近年は、インフラ整備の一環として中国による港湾開発も進められており、かつての賑わいを一部取り戻しつつあります。

バガモヨは、古代からの交易、奴隷貿易の悲劇、ヨーロッパ探険の歴史、そして植民地時代の変遷といった、東アフリカの複雑で重層的な歴史を肌で感じられる場所として、訪れる人々に多くの問いかけを投げかけています。

もう一度検索