バクル・シドキ

バクル・シドキ：イラクの軍人、その生涯と政治的影響

バクル・シドキ（بكر صدقي, Bakr Sidqi, 1890年 - 1937年）は、オスマン帝国統治下のキルクーク（現在のイラク北部）で生まれ、イラクの軍人としてその名を歴史に刻みました。

オスマン軍での初期

当時の多くの野心的なアラブ人青年と同様に、シドキもオスマン軍に入隊し、軍人としてのキャリアをスタートさせました。アラブ独立運動が高まりつつある時代でしたが、シドキは軍隊で人格形成期を過ごしました。

イラク独立後の台頭

第一次世界大戦後、イラクはイギリスの委任統治を経て独立。しかし、1930年代には国内各地で部族の反乱が頻発しました。シドキはこれらの鎮圧で手腕を発揮し、ファイサル1世国王からイラク北部地域の司令官に任命されます。

アッシリア人問題への関与

当時、イラク北部のアッシリア人は自治権を求めて国際連盟に訴えましたが、その訴えは受け入れられませんでした。一部からは、武力によってでもアッシリア人自治区を打ち立てるべきだという意見が出ていました。1933年、アッシリア人指導者たちはバグダードでイラク政府と協議しましたが決裂。指導者たちは拘束され、イラク国内での将来に不安を感じたアッシリア人たちはシリアへ向かいました。しかし、シリアを統治していたフランスによって追い返され、イラク軍との間で武力衝突が発生。この事件はイラク世論に大きな衝撃を与え、アッシリア人は国家統一の障害と見なされるようになりました。

反乱鎮圧と権力掌握

シドキは反乱鎮圧の全権を与えられ、クルド人勢力と協力してアッシリア人虐殺（Simele massacre）を実行。この『功績』により昇進を果たします。その後も、ユーフラテス川中流域のシーア派部族の反乱を鎮圧するなど、その軍事力を背景にイラク政府内で存在感を高めていきました。

クーデターと暗殺

しかし、ヤースィーン・アル＝ハーシミー首相の独裁体制が確立されるにつれ、シドキは政府中枢から排除されるようになります。自身の昇進が遅れているのは、首相の弟であるターハー・アル＝ハーシミー参謀総長のせいだと考えたシドキは、ハーシミー政権打倒を目指すグループに接近。1936年、ハーシミー首相がトルコ訪問に出発すると、シドキは『国家改革軍』を率いてバグダードに進軍し、クーデターを成功させました。しかし、このクーデターは軍内部の汎アラブ主義者からの反発を招き、シドキは1937年8月、トルコ訪問の途中にモースルの空港で暗殺されました。

遺産

バクル・シドキの生涯は、イラクの政治と軍の関係を考える上で重要な事例です。彼の軍事力は、イラクの政治に大きな影響を与え、その後のイラクの歴史に影を落としました。

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