バナナ型神話

バナナ型神話とは

バナナ型神話とは、東南アジアやニューギニアを中心に各地に見られる、死や短命にまつわる起源神話です。この神話では、重要なアイテムとしてバナナが登場することが特徴で、スコットランドの社会人類学者ジェームズ・フレイザーによって命名されました。

バナナ型神話の基本的な物語

基本的な物語は、おおむね以下のようになります。

神が人間に対して石とバナナを示し、どちらかを選ぶように命じます。人間は、食べることができ、腐りやすいバナナを選んでしまいます。硬く変質しない石は不老不死の象徴であり、もし石を選んでいれば人間は不死になったのですが、バナナを選んだために、バナナが子を産むと親が枯れてしまうように、人間は死ぬべき存在になった、または短命になったというものです。

各地のバナナ型神話

バナナ型神話は、世界各地で様々な形で語り継がれており、それぞれの文化的な背景を反映した独自の解釈が加えられています。

スラウェシ島のアルフール族（トラジャ族）の神話

創造神が、人間に対して石とバナナを示し、どちらかを選ぶように命じます。人間はバナナを選んだため、死ぬべき存在になりました。もし石を選んでいれば、不変不死であっただろうと語られています。

日本神話

天孫降臨の際、オオヤマツミが娘のイワナガヒメとコノハナノサクヤビメを嫁がせますが、ニニギはイワナガヒメを帰し、コノハナノサクヤビメのみと結婚しました。イワナガヒメは長寿の象徴でしたが、彼女が拒絶されたために、天孫は短命になったとされます。バナナは登場しませんが、岩を名に持つイワナガヒメが選ばれなかったことが、バナナ型神話の変形と解釈されています。

カインとアベルの異説

カインとアベルにはそれぞれ双子の妹がおり、アベルの配偶者として取り決められていたルルワがアクレミアより美しかったため、カインが嫉妬しアベルを殺害してしまいます。ルルワがバナナ、アクレミアが石に相当すると解釈されています。

旧約聖書の創世記

エデンの園には、生命の樹と知恵の樹があり、人類は知恵の樹の実を食べることを禁じられていました。しかし、蛇にそそのかされ、知恵の樹の実を食べてしまったため、永遠の命を失い、死ぬべき存在となりました。この物語も、生命の樹と知恵の樹の二者択一という点で、バナナ型神話の変形と解釈されています。

ギリシア神話

プロメーテウスがゼウスを欺き、神々には骨を、人間には肉を与えました。このため、人間は腐りやすい肉のように死ぬべき存在になったとされます。この神話では、選択を行うのが人間ではなく神々である点が特徴的ですが、二者択一の構造は共通しています。

インドネシアのバナナ型神話

太古にバナナの木と石が、人間がどのようであるべきかを論争します。石は人間が石のように硬く不死であるべきだと主張し、バナナは人間がバナナのように子を産むべきだと主張しました。結果として、人間はバナナのように死ぬべき存在になったとされています。

マレー半島のメントラ族の神話

この世の初め、人間は不死でしたが、増えすぎたため、最初の人間兄弟が人間もバナナのように子孫を残して死ぬようにすべきだと主張し、人間はバナナのように死ぬべき存在になりました。

ナイジェリアの神話「カメのおねがい」

初め、誰も死ぬことはありませんでしたが、カメが子を望んだため、死ぬべき存在になりました。石は子供を望まなかったため、不死のままでした。

ズールー族の神話

カメレオンとトカゲが神の言葉を人間に伝える際、カメレオンは寄り道をしたため、トカゲが先に「人間は死ぬ」と伝えてしまいました。その結果、人間は死ぬべき存在になりました。

アイヌの口承民話

神がカワウソに、人間を作る際の材料を石にするように伝えたが、カワウソが伝言を忘れたため、人間は木を材料として作られ、不死ではなくなりました。

宮古島の伝承

月と太陽が人間に長命を与えようとしましたが、使いの者が途中で蛇に不死の水を浴びさせてしまったため、人間は短命のうちに死ななければならなくなりました。

台湾セデック族の神話

汚れた人が「洗えば永遠に生きられる」と言いましたが、人々が彼を洗わなかったため、人類は死ぬようになりました。

ミクロネシアのヤップ島の神話

老女が死ぬ前に、七日後に掘り起こせば生き返ると言いましたが、若い男女が性交をして八日経ってしまったため、老女は生き返らず、人間は死ぬようになりました。

塩の柱

ソドムとゴモラを逃れる際、ロトの妻が振り返ってはいけないという禁を破ったため、塩の柱になってしまいました。振り返ることが「石」、振り返らないことが「バナナ」に対応すると解釈できます。

インドネシア・セラム島のウェマーレ族の神話

バナナから生まれたハイヌウェレが殺された後、人類は死ぬようになりました。彼女を殺害した後、女神が九重の螺旋の門を築き、門を通る際にハイヌウェレの腕で殴られ、通過した者が部族の起源となったとされます。

アボリジニのガミラロイ（Gamilaroi）族の神話「月のバールーとダエン達」

月のバールーがダエン達に犬（蛇）を運ぶよう頼みましたが、ダエン達が拒否したため、石のように二度と生き返れない存在になりました。もし、頼まれたことをしていたら、バールーのように生き返ったとされています。

ギルガメシュ叙事詩

ギルガメシュは不老不死の草を手に入れますが、蛇に奪われてしまいます。この物語は、不老不死の喪失を描いたものとして、バナナ型神話と関連付けられます。

アダパと南風

アダパは天上で生命の食物を拒否したため、永遠の命を得ることができず、死ぬべき運命となりました。

持衰

海を渡る際、持衰という人が穢れを避けることで、航海の安全を願いました。この行為は、生と死、聖と俗を区別する行為であると解釈できます。

五火二道説

死後の運命を二つに分け、祖先の道と神々の道があるとしました。祖先の道は輪廻転生し、神々の道は二度と人間界に戻らないと説きました。

仏教

仏教では、輪廻から解脱することが救済であると説き、輪廻をバナナ、解脱を石に例えることができます。

死の起源説明神話の型分類

神話学者の福島秋穂は、死の起源説明神話を以下の5つの型に分類しています。

選択型：バナナ型神話の典型
対立型
伝令型
処罰型
代償型
複合型

バナナ型神話は、この分類のうち選択型に当てはまります。創世記の物語は、これらの型のすべてを持つ複合型であるとされています。

まとめ

バナナ型神話は、人類が死ぬべき存在となった起源を説明する神話であり、世界各地で様々な形で語り継がれています。これらの神話は、人類が直面する死という普遍的な問題を、それぞれの文化的な視点から捉えようとした試みであると言えるでしょう。また、バナナ型神話は、単に死の起源を説明するだけでなく、人間の選択と運命の関係、あるいは人間の欲望や過ちがもたらす結果について、深く考えさせるものでもあります。

バナナ型神話