バブシャ

バブシャ：モンゴル帝国を支えた皇族、斉王の生涯

バブシャ（生没年不詳）は、チンギス・カンの弟ジョチ・カサルの玄孫にあたるモンゴル帝国の皇族です。モンゴル語でBabuša、漢文史料では斉王八不沙、ペルシア語史料ではMāmīshāと記録されています。

波乱の時代に当主として立つ

バブシャは、シクドゥルの息子として生まれました。至元24年（1287年）、父シクドゥルはクビライ・カアンに対して反乱を起こします（ナヤン・カダアンの乱）。この反乱が鎮圧された後、クビライはカサル家を含む三王家の当主を交代させ、バブシャが新たな当主となりました。しかし、シクドゥルも依然として影響力を保持していたようです。

康熙『淄川県志』には、1293年にバブシャがアルグン川から般陽路に下した令旨が収録されており、当時カサル家がアルグン川流域を領地としていたこと、そして有力皇族が領地経営に深く関与していたことがわかります。

カイドゥとの戦いと領地経営

クビライの死後、オルジェイトゥ・カアンが即位すると、バブシャはカイドゥとの戦いに援軍として参加します。元貞2年（1296年）にはケルレン川流域に駐留し、多額の恩賞を授けられました。カイドゥの死後も、カラコルム駐屯軍で造酒を禁じる命令が出された際、バブシャは特例として許可されています。また、カイドゥとの戦争での功績により、クビライから下賜を受けています。

一方で、バブシャ配下の猟戸が華北投下領である般陽路で囲猟を行い、農民生活を混乱させていたため、行営と囲猟を禁じられるという事件も起きました。この一件から、元代中期においてもモンゴルの王家から送り込まれた遊牧民が華北投下領で活動していたことがわかります。

斉王として

大徳11年（1307年）、クルク・カアンが即位すると、バブシャは斉王に封ぜられました。以後、カサル家の当主は斉王を称するようになります。しかし、至大4年（1311年）には、ヤクドゥが旧民をバブシャの下から徴用したことがきっかけで、近隣の諸王と対立し、反乱を企んでいるという告発を受けるという事件も起こりました。トクトによる調査の結果、バブシャの告発は不当とされ、告発者たちは処罰されました。

ブヤント・カアンの治世では、投下領である般陽路のダルガチ任命を中央政府に求めた記録が残っています。バブシャの没年は不明ですが、1316年には甥のウルン・テムルが保恩王に封ぜられており、この頃には家督を譲っていたと考えられます。

子孫とカサル王家

『元史』にはバブシャの子に関する記述がなく、『集史』にもウルン・テムルに関する記述はありません。バブシャの死後、弟のコンゴルの子であるウルン・テムルがカサル家の当主となりました。ウルン・テムルの兄弟であるバイ・テムルとベルケ・テムルは、投下領を分割相続していたと推測されています。

バブシャは、モンゴル帝国の激動期にカサル家の当主として、領地の維持、カイドゥとの戦い、そして元朝との関係構築に奔走しました。彼の生涯は、モンゴル帝国の皇族が置かれた複雑な状況を物語っています。

カサル王家
ジョチ・カサル
淄川王イェグ
コルコスン
トク大王
エブゲン
イェスンゲ大王
親王エセン・エムゲン
シクドゥル王
斉王バブシャ
ビリグ大王
コンゴル王
バイ・テムル
斉王オルク・テムル
ベルケ・テムル

参考文献
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
『新元史』巻105列伝2
* 『蒙兀児史記』巻22列伝4

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