蒙兀児史記

蒙兀児史記（もうごるしき）

『蒙兀児史記』は、中華民国時代の歴史家、屠寄（とき、1856年 - 1921年）によって編纂された歴史書です。本書は、モンゴル帝国の勃興から元朝の滅亡に至るまでの歴史を、中国の伝統的な歴史記述形式である紀伝体で記述しています。別名として『蒙古児史記』とも呼ばれます。

編纂の背景

『蒙兀児史記』が編纂された背景には、先行する歴史書『元史』に対する批判がありました。『元史』は編纂期間が短く、内容に不備が多いと指摘されていました。屠寄は、この『元史』の欠点を補い、より詳細かつ正確な元朝史を記述することを目指しました。

内容の特徴

本書の大きな特徴の一つは、ラシードゥッディーンの『集史』など、西方由来の史料を積極的に取り入れている点です。これにより、従来の中国側の史料だけでは得られなかった情報を取り入れ、より多角的な視点からモンゴル帝国と元朝の歴史を捉えることを可能にしました。

屠寄は、元朝史を単なる中国の一王朝の歴史としてではなく、「モンゴル帝国史」というより広い枠組みの中で捉えるべきであるという立場をとっていました。そのため、『元史』では記述が少なかったジョチ・ウルス、チャガタイ・ウルス、フレグ・ウルスといった、モンゴル帝国の西方に成立したウルス（国家）についても詳細な記述を行っています。

構成

『蒙兀児史記』は、以下の構成で成り立っています。

本紀： 皇帝の事績を記した部分。全18巻。
列伝： 皇帝以外の人物の伝記を記した部分。全129巻。
表： 年表や系図などをまとめた部分。全12巻。
志： 制度や文化など、特定のテーマについて記述した部分。全1巻。

内容詳細

本紀

本紀では、チンギス・カンから元朝最後の皇帝であるトゴン・テムルに至るまでの皇帝の事績が記述されています。各皇帝の治世における重要な出来事や政策、人物などが詳細に記録されています。

列伝

列伝は、后妃、王族、功臣、学者、官僚など、様々な人物の伝記を収録しています。これらの伝記を通して、元朝の政治、経済、社会、文化など多岐にわたる側面を知ることができます。

表

表には、宗室の系図、諸王の封地、公主の婚姻関係などがまとめられています。これらの表は、元朝の支配体制や社会構造を理解する上で重要な資料となります。

志

志は地理志であり、元朝の統治した広大な地域の地理的情報や、西北三藩の地についての解説が記述されています。

史料としての価値

『蒙兀児史記』は、『元史』を補完する史料として、モンゴル帝国史および元朝史研究において重要な位置を占めています。西方史料の活用や、より広い視点からの歴史叙述は、従来の元朝史研究に新たな視点をもたらしました。ただし、編纂期間の制約から、内容には不備も指摘されており、利用にあたっては注意が必要です。

関連文献

元史
集史
* 新元史

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