バルカン・ファウンドリー

バルカン・ファウンドリー：イギリスを代表する機関車製造会社

バルカン・ファウンドリーは、かつてイギリスのランカシャー州ニュートン・ル・ウィローズに存在した、歴史ある機関車製造会社です。日本の鉄道黎明期に1号機関車を納入したことで、日本においてもその名を知られています。アメリカのバルカン・アイアン・ワークスとは社名が似ていますが、直接的な関係はありません。

歴史

1832年、リバプール・アンド・マンチェスター鉄道向けの橋梁や分岐器などを製造するチャールズ・テーラー・アンド・カンパニーとして設立されました。この会社は、ニューカッスルの機関車製造工場から離れた場所にあり、近隣に製造・支援を行う会社が求められていた背景から誕生しました。同年にロバート・スチーブンソンが共同設立者として参画しましたが、数年でその地位を離れています。1847年にバルカン・ファウンドリーとなり、1864年には有限責任会社、1898年にはバルカン・ファウンドリー・リミテッドへと社名を変更しました。

蒸気機関車の製造

初期には、ノース・ユニオン鉄道向けの車軸配置0-4-0の機関車「テーラーとスチーブンソン」を製造しました。この機関車は、スチーブンソンの設計した「プラネット」に類似していました。その後、ウォーリントン・アンド・ニュートン鉄道向けに車軸配置2-2-0の「後期プラネット形」機関車を製造し、レスター・アンド・スワニントン鉄道やバーミンガム・アンド・ダービー・ジャンクション鉄道からも発注を受けました。

アメリカ合衆国向けには、世界初のボギー式機関車である車軸配置4-2-0の機関車を製造し、1835年からはフランス、オーストリア、ロシアにも販路を拡大しました。同社の機関車は、スチーブンソンの影響を強く受け、長いボイラーが特徴でした。1852年にはインドのグレート・インディアン・ペニンシュラ鉄道でも採用されました。

数多くのフェアリー式機関車も製造しており、その中にはフェスティニオグ鉄道の「タリアセン」や、ニュージーランド鉄道Eクラスの「ジョセフィーヌ」などが含まれます。また、アングルレールを使用していたトレデガーの製鋼所には、フランジのない車軸配置0-4-0T機関車を納入しました。

マシュー・カートレイが設計したダブルフレームの貨物用機関車はミッドランド鉄道向けに製造され、インドや南アメリカへの輸出も積極的に行われました。第一次世界大戦後も輸出は続き、1924年にロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道（LMS）が設立されてからは、100両以上の0-6-0T形や65両のLMSコンパウンド4-4-0蒸気機関車など、大量の発注を受けました。

1930年代の不況下でも、インド、タンガニーカ、アルゼンチンへの輸出を継続し、1934年にはLMSから車軸配置4-6-0のブラック・ファイブや車軸配置2-8-0機の大量発注を受け、企業として存続することができました。

第二次世界大戦時

1939年からは軍需生産に転換し、マチルダII歩兵戦車の開発・生産を行いました。1943年には供給省から400両の車軸配置2-8-0機関車と50両の車軸配置0-6-0サドルタンク機関車を受注。1944年にはロバート・スティーブンソン・アンド・ホーソンズを傘下に収め、1945年には、復興が進むヨーロッパのUNRRA向けに車軸配置2-8-0機関車を受注しました。

戦後、インドが独立したことでインド向けの鉄道計画は大幅に縮小され、バルカン社はノース・ブリティッシュ・ロコモティブからの下請けに活路を見出そうとしましたが、他国との競争激化やインドの機関車開発能力向上により衰退を余儀なくされました。

ディーゼル機関車と電気機関車

バルカン・ファウンドリーは、ディーゼル機関車や電気機関車の分野にも進出しました。1928年にはインド向けに電気機関車「クロコダイル」31両を製造し、1931年にはLMS向けに試作ディーゼル機関車を製造しました。1938年にはニュージーランド鉄道省からRM形気動車を受注しましたが、1両が輸送中に攻撃され海没。1948年にはマレー鉄道に10両の電気式ディーゼル機関車を納入しました。

イギリス国鉄向けには、ネイピア・デルティックエンジンを搭載した55形ディーゼル機関車や、ガスタービンエンジンを搭載した試作車両GT3を製造しました。1962年に事業はイングリッシュ・エレクトリックに吸収され、パックスマンブランドでディーゼルエンジンの製造が続けられましたが、1970年には機関車の製造から撤退。エンジン製造は船舶用や定置用へ絞られました。

身売りと閉鎖

工場はイングリッシュ・エレクトリックからゼネラル・エレクトリック・カンパニー（GEC）へと売却され、その後GECの鉄道部門の変遷に伴い、GECアルストムを経てアルストムへ、最終的には2000年にMANに吸収されました。2002年に工場は閉鎖され、かつて工場があった一帯はバルカン工業団地と呼ばれていましたが、2007年10月には全ての施設が取り壊されました。しかし、バルカン・ビレッジと呼ばれる社宅が敷地の南の一角に残っています。

参考文献

Lowe, J.W., (1989) British Steam Locomotive Builders, Guild Publishing

外部リンク

Earlestown History
Newton le Willows History
Built By Vulcan
The Vulcan Foundry Newton-le-Willows
Vulcan Foundry