バルデナフィル

バルデナフィルは、勃起不全（ED）の治療を目的として使用される薬剤の一種であり、特定の酵素であるホスホジエステラーゼ5（PDE5）の働きを抑える、いわゆるPDE5阻害薬に分類されます。かつては「レビトラ」や「スタキシン」といった商品名で流通していましたが、これらの先発医薬品は2022年をもって販売を終了しました。現在日本国内で入手可能なバルデナフィル製剤は、主に後発医薬品（ジェネリック医薬品）のみとなっています。

薬剤としての特徴

この薬剤は、同じくED治療薬であるクエン酸シルデナフィル（バイアグラ）やタダラフィル（シアリス）と同じPDE5阻害薬ファミリーに属しており、基本的な作用機序や、適用できる疾患、あるいは使用が推奨されない状態（禁忌）はこれらの薬剤と多くの点で共通しています。

化学構造の面では、バルデナフィルはシルデナフィルと類似していますが、一部の原子配置や分子グループにおいて相違が見られます。一方、タダラフィルはシルデナフィルやバルデナフィルとは構造的に異なります。

効果の持続時間については、バルデナフィルは比較的短い部類に入りますが、シルデナフィルと比較するとやや長い傾向があります。これは患者さんのライフスタイルやニーズに合わせて薬剤を選択する上での一つの考慮点となります。

勃起不全への効果に加え、バルデナフィルは早漏の改善にも有効である可能性が示唆されており、性行為における膣内挿入から射精までの時間を有意に延長させる効果が期待される研究報告もあります。

服用方法

バルデナフィルの効果は、服用後比較的早い段階で現れることがあります。個人差がありますが、早い場合で15分程度、多くの場合で性行為の30分から1時間前に服用するのが効果的なタイミングとされています。服用後すぐに効果が現れる可能性がある一方で、計画的な服用が推奨されます。

服用時の注意点として、食事との関係が挙げられます。「食事の影響を受けにくい」という誤解があるようですが、高脂肪食など重い食事を摂った直後に服用すると、薬の吸収が妨げられ、効果が十分に発揮されない、あるいはまったく効果が得られないリスクが高まります。食事のタイミングを避けられない場合は、食前にあらかじめ服用を済ませておくか、食後2〜3時間ほど間隔を空けてから服用することが望ましいとされています。

通常、1日に1回までの服用に留める必要があります。

副作用（有害反応）

バルデナフィルを含むPDE5阻害薬に共通して見られる一般的な副作用には、頭痛、顔のほてり、鼻づまりなどがあります。バルデナフィルに比較的特有な副作用としては、吐き気が挙げられます。

まれに発生する副作用には、腹部の不快感、腰の痛み、光に対する過敏症、視覚の変化や目の痛み、顔や手足のむくみ、血圧の低下、動悸や頻脈、関節や筋肉の痛み、発疹やかゆみなどがあります。

非常にまれではありますが、深刻な副作用も報告されています。その一つに心臓発作の可能性があり、心血管系の既往がある方などは注意が必要です。また、バルデナフィルを含むPDE5阻害薬の使用により、勃起が4時間以上持続する「持続勃起症（プリアピズム）」を引き起こすことがあります。これは非常に痛みを伴う状態で、放置すると陰茎の組織損傷や永続的な勃起不全につながる可能性があるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。

さらに、2007年にはアメリカ食品医薬品局（FDA）が、バルデナフィルを含むPDE5阻害薬の製品情報に、突然の難聴に関する注意喚起を追記するよう求める発表を行いました。

相互作用

バルデナフィルは、特定の薬剤との併用が禁じられています。最も重要な禁忌は、狭心症などの治療に用いられる「硝酸薬」との併用です。バルデナフィルと硝酸薬を一緒に服用すると、急激かつ生命を脅かすほどに血圧が低下する危険性があるため、絶対に避ける必要があります。

また、バルデナフィルは心電図上のQT間隔を延長させる可能性があるため、QT間隔に影響を与える他の薬剤（例えば、不整脈治療薬のアミオダロンなど）を服用している場合も、併用には注意が必要、あるいは避けるべきとされています。

歴史と販売状況

バルデナフィルは、ドイツのバイエル社を中心に、グラクソ・スミスクライン（GSK）やシェリング・プラウといった製薬会社が共同で開発・販売に関わりました。国際的な商品名としては「レビトラ」が知られ、2003年3月に国際的な承認を得ています。国によっては「ビバンザ」や、口腔内崩壊錠の「スタキシン」としても販売されました。

日本国内では、2004年4月にレビトラ錠5mgと10mgが、2007年5月には20mg錠が承認され、バイエル薬品によって販売されていました。処方箋医薬品として扱われましたが、薬価基準には収載されておらず、自由診療での提供でした。しかし、前述の通りレビトラ錠は2022年に販売を終了しました。

レビトラの販売終了に先立ち、2020年7月には沢井製薬や東和薬品といったメーカーからバルデナフィルの後発医薬品が発売され、現在はこちらの後発品が日本の市場で主に流通しています。これらの後発品は、先発品と同一の有効成分を含み、同等の効果や安全性、効果発現時間を持つことが確認されています。

剤型

バルデナフィルは、通常、2.5mg、5mg、10mg、20mgといった異なる用量の丸いオレンジ色の錠剤として提供されています。標準的な開始用量としては10mgが推奨されることが多いようです。

一部の国では、水なしで舌の上で溶かして服用できる口腔内崩壊錠（スタキシン10mg）も販売されていますが、この剤型は日本では承認されていません。

偽造品・汚染サプリメントへの注意

勃起不全治療薬の人気に伴い、正規のバルデナフィルを含む、あるいは類似の成分を無許可で添加した健康食品やサプリメントが流通しているケースが報告されています。特に「天然成分のみ」と謳いながら、実際にはバルデナフィルなどの合成PDE5阻害薬が混入している製品が、アメリカ食品医薬品局（US FDA）などによって多数検出されています。これらの製品は品質や安全性が保証されず、予期せぬ副作用や健康被害を引き起こす可能性があるため、正規の医療機関で処方された薬剤以外を使用することは非常に危険です。

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