バルラス

バルラス部：中央ユーラシアの歴史を彩ったモンゴル系部族

バルラス（Barlas）は、中央ユーラシアで活動した重要な部族集団です。モンゴル帝国時代から頭角を現し、後のティムール朝の創始者を輩出するなど、歴史に大きな影響を与えました。

バルラス部の系譜

バルラス部は、大きく分けて二つの氏族から構成されます。一つはトンビナイ・セチェンの子、カチュラ・ギルタンを始祖とする大バルラス氏族、もう一つはカチャン（カチウ）を始祖とする小バルラス氏族です。

モンゴル帝国時代前後のバルラス部

チンギス・カン以前、バルラス部はモンゴル部に属する氏族でした。『元朝秘史』によれば、その始祖カチュリは、モンゴル部の始祖アラン・コアの子であるボドンチャル・ムンカクの孫、メネン・トドンの息子の一人であったと伝えられています。

メネン・トドンの息子は、カチ・クルク、カチン、カチウ、カチュラ、カラルダイ、ナチン・バアトルの7人でした。カチウにはバラルダイという息子がおり、彼は大食漢で体格も良かったため、その子孫はバルラス部族と呼ばれるようになったという伝説があります。

カチュラの息子もまた大食漢であったため、カチウ家の子孫を「大バルラス」、カチュラ家の子孫を「小バルラス」と名付け、両者を合わせてバルラス部となりました。キヤト氏やタイチウト氏とは祖先を同じくし、チンギス・カン家と同族のボルジギン氏に繋がる有力な家系でした。

カチュリの子孫は、カブル・カンの子孫であるキヤト氏族に従い、キヤト氏のチンギス・カンに仕えました。カラチャル・ノヤンはモンゴル帝国の千人隊長の一人となり、チンギスの次男チャガタイのウルス（所領）に配属されました。13世紀中頃にチャガタイ・ウルスがイリ川の渓谷に移るとこれに従い、14世紀にチャガタイ・ハン国を形成して中央アジアの広い地域を支配するようになると、バルラス部も各地に散らばりました。

ティムール朝の台頭とバルラス部族神話

14世紀中頃、西チャガタイ・ハン国のシャフリサブズにいたバルラス部の小貴族、カラチャル・ノヤンの5代目の子孫にあたるティムールは、チャガタイ・ハン国再編の動きに乗じて頭角を現し、1360年にバルラス部のアミールとなりました。1370年までに西トルキスタンの各地で割拠する諸部族を制圧し、西チャガタイ・ハン国領を統一してティムール朝を建設しました。

ティムール朝はバルラス部族出身であるため、チンギス・カンの男系子孫、いわゆるアルタン・ウルク（黄金氏族）でなければ即位できないハンの地位に就くことができませんでした。そのため、チンギス・ハーンの子孫を保護して名目上のハンに立て、自らはチンギス家の娘と結婚して王家の娘婿（アミール・キュレゲン）の資格をもとに支配の正統化を図りました。

ティムール朝の治下では、この体制を歴史的に裏付けるために、ある種の伝説も作られました。年代記によると、モンゴルのトゥメネイ・ハンには、カチュリとカブルの二人の息子がおり、父のトゥメネイは弟のカブルとその子孫がハン位を継承し、兄のカチュリとその子孫はハンのもとで行政と軍事を司るように定め、二人に誓約を行わせたといいます。これにより、カブルの子孫であるチンギス家はハンとして即位する権利を持つものの、カチュリの子孫であるティムール家が先祖の誓約に従って行政と軍事の全権を握るという正当性を示しました。こうして、バルラス部のティムール家は、チンギス家に次ぐ高貴な家柄であることが主張されたのです。

16世紀初頭にティムール朝が滅ぼされた後も、ティムール家の王子バーブルはインドに移ってムガル帝国を立て、ムガル帝国でもバルラス部はチンギス家と並ぶ高貴な家系であるという主張が繰り返され、王家の正統性が主張されました。

バルラス部は、モンゴル帝国の時代からティムール朝、そしてムガル帝国へと、その影響力を拡大し、中央ユーラシアの歴史に深く刻まれました。

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