バンクサイド発電所

バンクサイド発電所：歴史と変貌

ロンドン中心部、テムズ川南岸のサザーク区バンクサイドに建っていたバンクサイド発電所は、1891年から1981年までロンドンの街に電力を供給した歴史的建造物です。その後、現代美術館として再生を遂げ、現在ではテート・モダンとして世界的に知られています。本稿では、発電所としての歴史から美術館への変遷まで、その全貌を多角的に紐解きます。

発電所の黎明期：バンクサイドA発電所 (1893-1959)

1891年、シティ・オブ・ロンドン・エレクトリック・ライトニング・カンパニー(CLELCo)によって、バンクサイド・メレディス・ワーフに最初の発電所が建設されました。当初は直流送電でしたが、その後交流送電への移行、そして電力需要の増大に伴う発電所の拡張工事が繰り返されました。

ウィランズ製エンジンやブラッシュ製、フェランティ製の発電機が導入され、出力は年々増加。1900年代初頭には、直流発電設備も増設され、ロンドンの街灯や商業施設、家庭へと電力が供給されました。1919年には、発電システムは単相交流から三相交流へと更新され、蒸気条件の向上も図られました。

1920年代には大規模な拡張が行われ、新しいボイラー室が建設、古い設備の更新が進められました。石炭を主燃料として使用していましたが、石炭ストライキを機に一部石油ボイラーも導入されました。1934年には、ナショナル・グリッドに接続され、中央電力庁の管理下に入りました。

発電所稼働中には、煙害などの環境問題による周辺住民からの苦情が絶えませんでした。1900年代初頭には、CLELCoは煙害問題で多額の罰金を科せられています。1950年代には、発電所からの煤塵による大気汚染が深刻な問題となり、その実態が調査されました。

バンクサイドB発電所(1947-1981)への移行

バンクサイドA発電所の老朽化と、増大する電力需要への対応として、新しい発電所の建設が計画されました。第二次世界大戦の影響により遅れはありましたが、1947年、バンクサイドB発電所の建設が承認されました。

設計は著名な建築家ギルバート・スコットが担当し、独特の工業デザインが特徴的です。石炭を燃料として計画されていましたが、1947年の石炭不足を背景に、石油を燃料とする発電所となりました。

建設は二期にわたって行われ、A発電所が稼働を続ける中、B発電所の建設が進められました。A発電所は1959年に閉鎖、B発電所は1963年に完成し、本格稼働を開始しました。

B発電所では、大気汚染対策として、当時としては最新鋭の煙道ガス洗浄プラントが設置されました。しかし、洗浄による副産物の処理や、洗浄後のガスによる新たな問題も発生しました。1970年代には、地域熱供給計画が一時的に進められましたが、燃料危機により頓挫しました。

オイルショック後の石油価格高騰により、発電所の経済性が悪化。1970年代後半から発電容量の縮小が進み、1981年10月、バンクサイドB発電所は閉鎖されました。

テート・モダンへの再生

閉鎖後の発電所は、様々な再開発計画が提案されましたが、実現に至りませんでした。1990年代に入り、テート・ギャラリーが発電所の建物を活用し、新たな美術館を建設する計画を発表しました。

大規模な改修工事が行われ、2000年、テート・モダンがオープンしました。発電所の歴史的建造物を活かしつつ、現代美術の展示空間として生まれ変わったのです。発電所時代の構造物を残しつつも、内部は現代美術館としての機能を備えた洗練された空間に生まれ変わりました。

現在、テート・モダンは世界的な現代美術館として人気を博し、年間数百万人の観光客が訪れています。バンクサイド発電所は、その歴史と変貌を通して、産業遺産の再利用という現代的な課題への一つの解答を示したと言えるでしょう。

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