バーゼル市電

バーゼル市電

バーゼル市電（ドイツ語: Strassenbahn Basel）は、スイスの都市バーゼルを中心に、近隣のフランスやドイツの都市にも路線網を広げる重要な公共交通機関です。その運営は、バーゼル＝シュタット準州が全株式を保有する公営事業者、バーゼル市交通局（Basler Verkehrs-Betriebe、BVB）によって行われています。

歴史

バーゼルにおける公共交通の歴史は、1874年に計画された馬が牽引する形態に始まります。ベルギーの事業者とバーゼル市の間で協定が結ばれ、1881年7月11日に「トラム・オムニバス」と呼ばれる乗合馬車として営業運転が開始されました。開業当初は好調な収益を上げましたが、間もなく訪れた不況の影響で利用客は減少。経営は立ち行かなくなり、事業者は破産を申請するに至りました。

一方で、都市の成長に伴う市街地の拡大は、公共交通への需要を一層高めました。これを受けて、1890年には大規模な路面電車ネットワークの建設構想が浮上します。運営主体について、民間と市当局の間で見解の相違がありましたが、最終的に1892年、バーゼル大評議会は市が設立する「バーゼル路面電車公社（BStB）」による整備・運行を承認しました。そして1895年5月4日、バーゼル市電はスイスで初めて公営組織によって運営される路面電車としてその歴史を刻み始めました。

開業後、計画に基づき路線網は目覚ましい速さで拡大しました。1900年にはフランスのサン＝ルイへの国際路線が開通。その後も近隣諸国への延伸が複数回実現しました。これらの国境を越える運行は、第一次世界大戦中に一時休止されましたが、1915年には再開されています。しかし、順調な発展の一方で、1905年には賃金制度への不満から労働組合による大規模なストライキが発生。翌年には労働者の待遇改善につながる賃金体系への変更が余儀なくされました。

1930年代の世界恐慌期には、バーゼル市電も大幅な利用客減とそれに伴う赤字に苦しみました。さらに第二次世界大戦中は、一部路線の運休を余儀なくされる状況に陥りました。終戦後、こうした状況の改善と路線網の復旧を図るため、運営体制の見直しが進められました。1946年には現在の「バーゼル市交通局」が設立され、1947年以降は輸送力増強のため大型ボギー車が大量に導入されました。

しかし、1950年代以降のスイスではモータリゼーションが急速に進展し、多くの都市で路面電車がバスなどに置き換えられていきました。バーゼルも例外ではなく、路面電車自体の全廃に対する市民投票では反対票が上回ったものの、特に国際路線を含む多くの区間が廃止の憂き目に遭いました。それでも、路面電車網の近代化は継続されました。信用乗車方式の導入による合理化や、新型車両の導入が続けられました。そのような流れの中、1969年には学生による運賃値上げ反対の座り込み運動が起こりました。運賃の無料化要求は退けられたものの、値上げは撤回された他、路面電車を中心とした公共交通のあり方を見直す契機となりました。そして1971年9月、バーゼル大評議会は環境負荷の少ない公共交通機関を優先する都市開発の将来計画を決定したのです。

これ以降、自家用車乗り入れ制限区域の設置や公共交通優先信号の整備など、利便性向上を促す政策が推進されました。民間事業者であるバーゼルラント交通などが運行する路線も含めた、一体的な料金体系も導入されました。特に1985年にバーゼルラント交通と共同で導入された環境保護定期券「U-Abo」は、その手頃な運賃が支持を集め、わずか数年で運賃収入が25%増加。欧州各都市で同様の定期券が登場するきっかけともなりました。1990年代以降も路面電車の近代化は進み、1999年からは既存車両の低床化改造や新型超低床電車の導入が継続して行われています。2000年代以降には、かつて廃止された国境を越える路線を含む延伸（事実上の復活）も実現しています。

系統

2021年現在、バーゼル市交通局はバーゼル市内を中心に9系統の路面電車を運行しています。中でも以下の2系統は、バーゼルとの人流が活発なスイス国外の都市へ直通しており、交通渋滞の緩和、環境負荷の低減、そして地域住民の利便性向上に貢献しています。

3号線: 2017年12月10日にフランスのサン＝ルイへ延伸されました。
8号線: 2014年12月14日にドイツのヴァイル・アム・ラインへと延伸されました。建設費用の大部分はスイスとバーゼル＝シュタット準州が負担しました。

車両

2021年現在、バーゼル市電で営業運転に使用されている主な車両形式は以下の通りです。これらの現役車両に加え、バーゼル市交通局はかつて使用されていた路面電車車両を多数動態保存しており、貸切運転にも活用されています。

コーニション（Be 4/4）: 1986年から1987年にかけて導入されたボギー車です。超低床車の導入により数を減らしていますが、2018年時点では一部車両が付随車を連結した3両編成で運用されていました。
アンハンガー（B4s）: 1971年から1972年に製造された付随車です。2021年時点で在籍する20両は、車体中央部が低床構造に改造されており、「コーニション」などと連結して運転されます。
コンビーノ（Be 6/8）: シーメンス製の7車体連接式超低床電車です。バーゼル市電では初めての新造超低床車として2001年から2002年にかけて導入され、2021年現在は28両が運行しています。
フレキシティ2（Be 6/8、Be 4/6）: ボンバルディア・トランスポーテーション（現：アルストム）が製造する超低床電車シリーズです。輸送力増強と既存車両置き換えのため、2012年に60両、2014年に1両が発注され、2014年から2018年にかけて導入されました。うち17両は7車体連接のBe 6/8、44両は5車体連接のBe 4/6です。

今後の展望

バーゼル＝シュタット準州では、バーゼル中心部の混雑緩和や郊外地域への接続改善を目指し、新たな路線の建設、既存系統の延伸や経路変更を含む、大規模な路面電車ネットワークの拡張・再編計画を推進しています。その一環として、1号線が経由するバーゼル・バディッシャー駅方面の路線については、2026年の試運転開始が予定されています。

関連項目

* バーゼルラント交通: バーゼル市内に路線網を持つ民間の交通事業者です。バーゼル市交通局の路線と共通の系統番号を使用しています。

もう一度検索