バーニー・ロス

バーニー・ロス

アメリカ合衆国が輩出したプロボクサー、バーニー・ロス（Barney Ross）は、1909年12月23日にニューヨークで生を受けました。本名をバーネット・デビッド・ラソフスキー（Barnett David Rasofsky）といい、ユダヤ系の出自を持ちます。軽量級から中量級にかけてその才能を発揮し、ライト級、ジュニア・ウェルター級、そしてウェルター級の世界タイトルを獲得。ボクシング史において、複数階級制覇という偉業を成し遂げた先駆者の一人として記憶されています。

苦難を乗り越えた少年時代

ロスの人生は、そのキャリアが始まる前から多くの試練に満ちていました。幼少期をシカゴの貧困地区で過ごし、14歳の時には強盗によって父親を殺害されるという悲劇に見舞われます。この衝撃により母親は精神を病み、家庭は崩壊。幼いロスは孤児同然となり、一時期は地域のギャングの使い走りのようなことまでして日々の生活を送っていたと伝えられています。このような過酷な環境が、後の彼の不屈の精神を培ったのかもしれません。

リングへの道、そしてプロ転向

どん底での生活から抜け出すきっかけとなったのがボクシングでした。賞品に惹かれてアマチュアボクシングのリングに上がり始めたロスは、次第にその才能を開花させていきます。そして1929年、プロボクサーとしてのキャリアをスタートさせました。

世界王座獲得と3階級制覇

プロ転向後、ロスは着実にその実力を示し、世界の頂を目指します。1933年6月23日、当時のライト級とジュニア・ウェルター級の二冠を保持していた強豪トニー・カンゾネリに挑戦。壮絶な打ち合いの末、判定で勝利を収め、両階級のタイトルを同時に獲得するという快挙を達成しました。同年9月12日に行われたカンゾネリとの再戦でも再び勝利し、その実力が偶然でないことを証明します。

ジュニア・ウェルター級王座を4度防衛した後、ロスはさらなる高みを目指しました。1934年5月28日、ウェルター級のタイトルを懸けて、並外れた強打で知られるジミー・マクラーニンに挑みます。試合中にダウンを喫する苦しい展開となりますが、驚異的な粘りを見せ、最終的に2対1の判定で勝利をもぎ取りました。この勝利により、ロスは史上初の3階級制覇という歴史的な偉業を達成します。

しかし、マクラーニンとの戦いはこれで終わりではありませんでした。同年9月17日の再戦では判定で敗れ、ウェルター級タイトルを明け渡してしまいます。それでもロスは諦めず、翌1935年5月28日、因縁のライバルとの3度目の対決に臨みました。この最終戦で勝利を収め、再びウェルター級のベルトを巻き、マクラーニンとの熾烈なライバル関係に終止符を打ちました。

ウェルター級王者として、ロスはその後もイジー・ジャナッソ、セフェリノ・ガルシアといった強敵を相手に2度の防衛を成功させます。そして、3度目の防衛戦の相手としてリングに上がったのは、フェザー級王者であり、自身もまた3階級同時制覇を狙っていたヘンリー・アームストロングでした。

最後の戦いと引退

1938年5月31日、ロングアイランドで両雄は対峙しました。試合は序盤こそロスが攻勢を見せましたが、アームストロングの猛攻の前に徐々に一方的な展開となります。ロスはアームストロングから容赦ない打撃を浴び続け、レフェリーは試合の中止を勧告します。しかし、不屈の精神を持つロスはこれを断固として拒否。最後まで決して膝をつくことなく、立ったまま最終ラウンドのゴングを聞き届けました。この壮絶な試合を最後に、バーニー・ロスはその輝かしいボクシングキャリアに終止符を打ち、現役を引退しました。

戦後の苦難と新たな道

ボクシング引退後、第二次世界大戦が勃発すると、ロスは祖国のために海兵隊に志願します。激戦地として知られるガダルカナル島での任務中に負傷し、その痛みを和らげるために使用されたモルヒネによって薬物中毒に陥るという新たな試練に直面しました。しかし、ここでもロスは持ち前の精神力で苦境を乗り越え、長いリハビリを経て見事に回復を遂げます。

戦後はボクシングの世界に戻り、レフェリーとして活動を開始。1965年5月17日、日本のファイティング原田が、当時「無敗の神話」を誇っていたエデル・ジョフレを破った歴史的な一戦で、リング上から両者の激闘を見守ったレフェリーこそ、このバーニー・ロスでした。彼の波乱に満ちた生涯は、リングの内外で様々な困難に立ち向かい、決して諦めない姿勢を示し続けました。

通算戦績

プロキャリア全体を通して、バーニー・ロスは81試合を戦い、74勝（22KO）4敗3分けという優れた戦績を残しています。

関連項目

[複数階級制覇 (ボクシング)]

外部リンク

BoxRec - バーニー・ロスの戦績（英語）

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