パイプマシン

パイプマシンとは

パイプマシン（Pipe Threading Machine）は、主に水道、ガス、その他の気体配管に使用される鋼管に、接合のための様々な加工を施す電動工具です。日本では「ねじ切り機」とも呼ばれます。この機械は、鋼管の切断を行う「パイプカッタ」、管内面を整える「リーマ」、そしてねじ山を切る「ダイヘッド」の機能を一台に集約しています。

パイプマシンが登場する以前は、「パイプねじ切り器（オスタ型・リード型）」を用いて手作業でねじ切りを行っていたため、非常に重労働でした。パイプマシンの登場により、作業効率が飛躍的に向上し、配管工事の現場に革命をもたらしました。

発売当初、職人たちはこの機械を「パイセット」と呼んでいましたが、1970年代に市場に広く普及し、各社が独自ブランドで展開しました。アサダは「パンダ」、松阪鉄工所は「黒豹」、レッキス工業は「牛若」「アポロ」といった愛称で親しまれました。2000年頃までは、鋼管配管作業に欠かせない工具として、水道やガス工事の作業車に常備されていました。

日本でのパイプマシンの歴史

各社がパイプマシンの製造を開始した年を以下に示します。

1953年 - アサダ株式会社（旧・東海鉄工所）が国産初の可搬式電動パイプねじ切り機「パイセット」を開発・製造開始。
1954年 - 株式会社オグラがパイプマシン開発・製造開始（現在は販売中止）。
1961年 - レッキス工業株式会社がパイプマシン製造開始（1996年に中国工場を設立）。
1965年 - 株式会社松阪鉄工所がパイプマシンPM02製造開始。
開始年不明 - 株式会社曽根工具製作所（現・育良精機）が製造開始（現在は販売中止）。

1990年代後半から2000年頃にかけて、腐食による錆、耐震対策、施工の簡略化のため、ガスや水道の配管は鋼管からポリエチレンやポリブテンなどの樹脂管に置き換えられました。これにより、パイプマシンの国内需要は、補修工事や工場設備用配管など、限られた用途に縮小しました。そのため、製造各社は製品の生産を終了したり、アジア諸国での製造・販売に注力するようになりました。

パイプマシンの能力（性能）

パイプマシン一台で、鋼管、被覆鋼管、圧力鋼管、ステンレス管の切断、内面取り、ねじ切りが可能です。また、チェーザ（刃物）を交換することで、管に各種規格のねじ、棒鋼材に左右のボルト用ねじを切削できます。

パイプマシンの各部構成

機械本体

機械本体は、主にアルミ鋳造品でできており、販売数やサイズに応じてダイキャスト、グラビティ、砂型鋳造などの製造方法が用いられています。

フロントチャック

フロントチャックは、ハンドホイール、フロントスクロール、チャック本体、爪で構成されています。スクロールの渦巻き状の凹凸と爪本体の凹凸が噛み合い、ハンドホイールを回すことでスクロールの回転が爪本体に伝わり、爪が管をしっかりと保持します。この構造により、ねじ切り時の大きな回転負荷にも滑ることなく、管を確実に固定できます。各メーカーは、独自の特許技術を駆使したチャック機構を開発しています。また、ハンドホイールとスクロールの連結部には、ハンマー効果を利用して爪をより強力に食い込ませる機能も備わっています。

減速機

減速機には、主にシリースモータが用いられ、密閉式のグリース潤滑方式です。シリースモータは、負荷が増加すると回転数が低下し、トルクが増大する特性があります。この特性を利用して、管のサイズに合わせた最適な切削速度（主軸回転数）になるように減速比が設定されています。一方、コンデンサーモータを使用する場合は、回転数が一定であるため、ギアチェンジ機構を介して主軸回転数を調整する必要があります。

モータ

パイプマシンには、シリースモータ（整流子モータ）と単相コンデンサモータの2種類のモータが採用されています。シリースモータは小型軽量であるため、比較的小さな鋼管を扱う機種（3インチ(80A)まで）によく用いられます。一方、コンデンサモータは、シリースモータよりも大型で高価ですが、動作音が静かであるという利点があり、主に3インチ(80A)以上の機種に使用されます。

往復台

往復台は、機械本体の支持棒に取り付けられ、主軸と同軸上で左右にスライドします。送りハンドルと切削油の通る穴が設けられており、ダイヘッド、パイプカッタ、リーマを取り付けることができます。ダイヘッドは、ねじ切り位置では切削油が供給され、ねじ切りが終わると自動的に切削油が排出される構造になっています。

ダイヘッド

ダイヘッドには、手動式、自動切上げ式、倣い式の3種類があります。手動ダイヘッドは、ハンドル操作によってチェーザを前後させ、徐々にねじを切削します。自動切上げダイヘッドは、規定のねじ長さに達すると自動的に切上げレバーが作動し、チェーザが拡がってねじ切りが終了します。倣いダイヘッドは、管用テーパねじ専用で、切削負荷を小さくすることができます。

チェーザ

チェーザは、管への食い付き部とねじ部から構成されており、鋼管用と被覆鋼管用で食い付き部の形状が異なります。また、チェーザの各部のすくい角度、逃げ角度、ねじ幅寸法の傾斜などが切削性能に影響します。パイプマシンには、旋盤のような親ねじによる送り機構はなく、チェーザのリード角によってねじ送りが行われます。チェーザは、PT、PF、BSPT、NPT、C、M、Wなど、様々な規格のねじに対応したものが用意されています。

パイプカッタ

パイプカッタは、往復台に取り付けられ、管の切断に使用します。主にカッタホイール式が用いられ、鋼管用、被覆鋼管用、ステンレス管用など、様々な材質の管に対応したものが用意されています。内被覆鋼管を切断する際は、カッタホイールを使用すると鋼管部と樹脂部が剥離するため、メタルソーや鋸を使用する必要があります。

リーマ

リーマは、切断した管の内側のバリを取り、流体の流れを良くするために使用されます。

主要メーカー

日本国内の主要メーカー

レッキス工業（REX）
アサダ（Asada）
松阪鉄工所（MCC）

海外の主要メーカー

RIDGID
ROTHENBERGER
REED
Virax
ROLLER
REMS

手動型

手動のねじ切り器は、体力が必要で時間がかかるため、工事現場ではあまり使用されていませんが、電源がない場所でも使用できるため、軍の工兵隊などで訓練に使用されています。

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