パイロトーシス

概要

パイロトーシスは、炎症を強く伴いながら細胞が破壊される、プログラム細胞死の一種です。特に細胞内に病原体が感染した際に、宿主の自然免疫応答の一部として引き起こされます。この過程では、感染した細胞自身が溶解し、病原体の増殖場所を排除するとともに、炎症を引き起こす様々な分子を細胞外に放出します。これにより、さらに多くの免疫細胞が集まり、病原体の迅速な排除や宿主の防御応答の強化が促されます。主に免疫細胞で起こることが多いですが、皮膚や一部の上皮細胞でも報告されています。

発見と命名

この特徴的な炎症性プログラム細胞死は、2001年にワシントン大学の研究者によって初めて「パイロトーシス」（pyroptosis）と命名されました。この言葉は、ギリシャ語で「火」を意味する"pyro"と、「落ちる」を意味する"ptosis"を組み合わせたもので、「燃えるように落ちる」といったニュアンスを含み、死滅する細胞から炎症性シグナルが勢いよく放出される様子を表現しています。パイロトーシスは他の細胞死の形態とは異なる特徴を持ち、その進化は微生物感染への応答と密接に関連していると考えられています。初期には特定の経路でのみ誘導されると思われていましたが、後にLPSによって直接活性化される非古典的経路が発見され、また、細胞膜に孔を開ける中心的な分子であるガスダーミンD（GSDMD）や、細胞膜の破壊に必要なNINJ1など、重要な分子や機構が相次いで特定されています。

形態と特徴

パイロトーシスを起こす細胞は、細胞膜に特定の分子による孔が多数形成されることが特徴です。この孔を通して水が流入し、細胞は著しく膨張します。最終的には細胞膜が破裂し、細胞の内容物が外部に放出されます。アポトーシスもプログラム細胞死ですが、パイロトーシスとは形態的にいくつかの点で異なります。アポトーシスでは核が断片化するのに対し、パイロトーシスでは核は比較的保たれます。また、細胞膜から特徴的な突起（pyroptotic body）が形成されることも、パイロトーシスに特有の形態的変化です。ネクロトーシスも膜孔形成を伴いますが、パイロトーシスはより厳密に制御されたプロセスです。

分子機構

パイロトーシスは、細胞が病原体由来の分子（PAMP）や宿主由来の危険シグナル（DAMP）を認識することから始まります。これらのシグナルは、細胞内のパターン認識受容体（PRR）によって感知され、インフラマソームと呼ばれる巨大なタンパク質複合体の形成を誘導します。インフラマソームは、特定タイプのカスパーゼ（ヒトではカスパーゼ-1、-4、-5、マウスではカスパーゼ-11など）を活性化させます。これらのカスパーゼは、炎症性サイトカインであるIL-1βやIL-18の前駆体、そしてパイロトーシスの実行分子であるガスダーミンDを切断し、活性化型へと変換します。活性化されたガスダーミンDのN末端部分は細胞膜に移動して集合し、孔を形成します。この孔を通じて、活性化されたIL-1βやIL-18、さらにはHMGB1、ATP、DNAといったDAMPsが細胞外に放出され、周囲の細胞を刺激して炎症反応をさらに増幅させます。インフラマソームを介した経路には、主にカスパーゼ-1が活性化される古典的経路と、LPSなどが直接カスパーゼ-4/5/11を活性化する非古典的経路が存在します。また、アポトーシスに関わるカスパーゼ-3がガスダーミンE（GSDME）を切断・活性化し、パイロトーシスを引き起こす経路も知られています。

生体での役割と疾患との関連

パイロトーシスは、感染防御において重要な役割を果たします。病原体に感染した細胞を自ら破壊することで病原体の増殖を抑え、放出される炎症性分子が免疫細胞を活性化し、病原体排除を促進します。例えば、サルモネラ菌や赤痢菌の感染に対する防御に寄与することが示されています。しかし、炎症反応が過剰になったり慢性化したりすると、宿主自身の組織を傷つける原因となります。このため、パイロトーシスは自己免疫疾患、代謝疾患（肥満、糖尿病など）、心血管疾患、がん、神経変性疾患など、様々な病態との関連が指摘されています。がんにおいては、がん細胞自身にパイロトーシスを誘導することで腫瘍の増殖を抑制する側面がある一方、放出される炎症因子が腫瘍の微小環境を変化させ、成長を促進する可能性も示唆されており、複雑な役割を担っています。近年、COVID-19の重症化にもパイロトーシスが関わることが明らかになり、治療標的としての研究が進められています。さらに、HIV感染におけるCD4陽性T細胞の減少と炎症にもパイロトーシスが深く関与しており、カスパーゼ阻害薬が新たな治療法となる可能性も探られています。インフラマソーム関連遺伝子の変異は、クリオピリノパチーといった自己炎症性疾患群の原因となることも知られており、パイロトーシス制御の重要性が示されています。

出典

本記事は公開情報に基づいて作成されています。

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