パラグアイオニバス

パラグアイオニバス (Victoria cruziana)

パラグアイオニバスは、スイレン科オオオニバス属に属する大型の水生植物です。その巨大な葉は水面に浮かび、まるで「たらい」のような形状をしていることでよく知られています。学名の Victoria はイギリスのビクトリア女王に、cruziana はボリビア・ペルー大統領であったアンドレス・デ・サンタ・クルスに由来します。

特徴

パラグアイオニバスは多年生または一年生の水生植物で、地下茎から生える葉が水面に広がります。葉柄は長く、葉身の裏面中央付近についており、多数のトゲと通気道があります。オオオニバスに比べるとトゲは短く、扁平で急に尖るのが特徴です。

葉身は円形で、最大直径2.4メートルに達します。縁は葉の直径の8–10%ほど立ち上がり、たらい状になります。葉の表面は緑色でクチクラ層が発達し、裏面は紫色を帯びることがあります。葉裏の葉脈は隆起して区画を形成し、トゲが生えています。

花

トゲのある長い花柄の先端に、直径30センチ[[メートル]]に達する大きな花が咲きます。花は2日間開閉を繰り返し、つぼみの先端がわずかにくびれます。萼片は4枚で、裏面は緑色または紫褐色を帯び、下部にトゲがあります。花弁は多数がらせん状につき、開花1日目は白色、2日目にはピンク色に変わります（特に基部）。雄しべも多数らせん状につき、最外部と最内部は仮雄しべです。

果実と種子

花後、花は水中に没して果実が成熟します。果実は液果状でトゲに覆われ、最大1000個ほどの種子を含みます。種子は亜球形で黒色から褐色、浮力のある仮種皮で覆われています。種子には休眠性を持つものと持たないものが混在します。

分布と生態

パラグアイオニバスは、南米のパラナ川・パラグアイ川流域に分布しています。近縁のオオオニバスよりも寒冷な環境に適応しています。主な送粉者はコガネムシ科の甲虫で、開花1日目の夕方に発熱し、強い果実臭でコガネムシ類を引き寄せます。このとき花は雌性期で、コガネムシ類は花に閉じ込められます。2日目の夕方に再び開花・発熱した花は雄性期にあり、花粉を放出してコガネムシ類を介して他家受粉が起こります。自家受粉も可能です。

人間との関わり

パラグアイオニバスは観賞用として植物園などで栽培され、大きな葉の上に子供を乗せるイベントも開催されます。大きい葉では体重30 kg程度の子供が乗ることも可能です。第二次世界大戦後、一時的に栽培が途絶えましたが、ヘルシンキの植物園で生き残っていた株から種子が譲渡され、再び世界各地で栽培されるようになりました。

植物園では、パラグアイオニバスとオオオニバスの交雑種も用いられます。有名な交雑種としては、1960年に作出された Victoria ‘Longwood Hybrid’ があります。

また、パラグアイオニバスの種子は食用に利用されることもあります。

系統と分類

パラグアイオニバスは、アンドレス・デ・サンタ・クルスの名にちなんで命名されました。オオオニバス、V. boliviana とともにオオオニバス属に分類され、V. boliviana とは極めて近縁です。オオオニバス属はオニバス属に近縁で、両属は姉妹群の関係にあります。分子系統学的研究からは、オオオニバス属とオニバス属がスイレン属に含まれることが示唆されており、分類学的にこれらの属をスイレン属に移すことも提唱されています。

パンタナルに分布するものは、他のパラグアイオニバスとは地理的に離れており、形態的差異もあることから Victoria cruziana f. mattogrossensis として種内分類群に分けられています。しかし、分子系統解析からはパラグアイオニバスの中に含まれることが示唆されています。

パラグアイオニバスは、その独特な姿と生態で、私たちを魅了する水生植物です。

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