シャルル・ミュンシュ

シャルル・ミュンシュ：情熱と即興の巨匠

シャルル・ミュンシュ（Charles Munch, 1891年9月26日 - 1968年11月6日）は、20世紀を代表するフランスの指揮者です。アルザス地方ストラスブールで生まれ、音楽家の家系に育ちました。当初はヴァイオリニストとして活動していましたが、後に指揮者としての才能を開花させ、その情熱的で熱狂的な演奏スタイルは、世界中の聴衆を魅了しました。

生涯

ミュンシュは、ルーテル教会のオルガニストであった父エルンスト・ミュンヒの息子として生まれました。音楽一家であり、叔父や従兄弟、兄弟も指揮者という音楽的な環境で育ちました。第一次世界大戦後、アルザスがフランス領に戻った際、ミュンシュは一時ドイツ国籍を選択しましたが、ナチスの台頭を嫌い、後にフランスに帰化しました。

ヴァイオリニストとしてのキャリアを積んだ後、1926年にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の奏者となりました。ゲヴァントハウスでは、フルトヴェングラーやワルターの下でコンサートマスターを務め、指揮者としての基礎を築きました。1929年にパリで指揮者としてデビューし、その後、パリ音楽院管弦楽団の指揮者として活躍しました。

1949年、ミュンシュはボストン交響楽団の常任指揮者に就任し、1962年までその地位を務めました。この間、数々の名演を残し、ボストン交響楽団を世界的なオーケストラへと押し上げました。また、1960年と1966年にはボストン交響楽団、フランス国立放送管弦楽団を率いて来日公演を行いました。1967年にはパリ管弦楽団の初代音楽監督に就任しましたが、翌年アメリカでの演奏旅行中に急逝しました。77歳でした。

指揮スタイル

ミュンシュの指揮は、その情熱的で爆発的な表現が特徴です。長い指揮棒を風車のように振り回す姿は、聴衆に強い印象を与えました。また、即興の名手としても知られ、綿密な練習を嫌う一方で、本番では練習とは全く違う指示を出すこともあったと言われています。ウィーン・フィルの楽団長を務めたオットー・シュトラッサーは、ミュンシュの即興性をクナッパーツブッシュと比較しています。

ミュンシュはドイツとフランスの音楽の両方に精通しており、それぞれの音楽の特性を深く理解していました。ボストン交響楽団との録音はRCAレーベルに、晩年のパリ管弦楽団との録音はEMIレーベルに数多く残されています。特にパリ管弦楽団とのベルリオーズの『幻想交響曲』とブラームスの第1交響曲の録音は、高い評価を得ています。また、ボストン交響楽団との録音では、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーンなどのドイツ音楽や、ベルリオーズ、フランク、サン＝サーンスなどのフランス音楽の名盤を多数残しています。

教育活動

ミュンシュは、後進の指導にも熱心でした。小澤征爾やシャルル・デュトワなど、多くの著名な指揮者を育てました。

主要な録音

ミュンシュは、数多くの録音を残しました。以下は、その代表的なものです。

J.S.バッハ：ブランデンブルク協奏曲第1〜6番、ヴァイオリン協奏曲第1番
モーツァルト：クラリネット協奏曲
ベートーヴェン：交響曲第1番、第3番「英雄」、第5番「運命」、第6番「田園」、第8番、第9番「合唱」、序曲集、ヴァイオリン協奏曲
シューベルト：交響曲第2番、第8番「未完成」、第9番「ザ・グレイト」
メンデルスゾーン：交響曲第3番「スコットランド」、第4番「イタリア」、第5番「宗教改革」、ヴァイオリン協奏曲
シューマン：交響曲第1番「春」、序曲集
ブラームス：交響曲第1番、第2番、第4番、悲劇的序曲
ワーグナー：管弦楽曲集
ベルリオーズ：幻想交響曲、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」、歌劇「トロイ人」抜粋、交響曲「イタリアのハロルド」、序曲集、レクイエム、歌曲集「夏の夜」、劇的物語「ファウストの劫罰」
フランク：交響曲、「呪われた狩人」
デュカス：「魔法使いの弟子」
イベール：「寄港地」
ビゼー：交響曲、「カルメン」組曲、「アルルの女」組曲、序曲「祖国」
サン＝サーンス：交響曲第3番「オルガン」、管弦楽曲集、チェロ協奏曲第1番
ショーソン：交響曲、詩曲
ダンディ：フランス山人の歌による交響曲
リムスキー＝コルサコフ：序曲「ロシアの復活祭」、金鶏
ボロディン：中央アジアの草原にて
ムソルグスキー：歌劇「ホヴァンシチーナ」より
チャイコフスキー：交響曲第4番、第6番「悲愴」、「ロメオとジュリエット」
ドヴォルザーク：交響曲第8番、チェロ協奏曲
ドビュッシー：海、牧神の午後への前奏曲、管弦楽のための「映像」〜イベリア
ラヴェル：ボレロ、ラ・ヴァルス、スペイン狂詩曲、組曲「マ・メール・ロワ」、「ダフニスとクロエ」、亡き王女のためのパヴァーヌ、高雅にして感傷的なワルツ
フォーレ：組曲「ペレアスとメリザンド」
アルベニス：イベリア
プロコフィエフ：ヴァイオリン協奏曲第2番
オネゲル：交響曲第2番、第5番「3つのレ」
ルーセル：交響曲第3番、第4番、「バッカスとアリアーヌ」組曲第2番
ミヨー：「世界の創造」、プロヴァンス組曲
プーランク：オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲
ウォルトン：チェロ協奏曲
君が代（ボストン交響楽団･1960年日本特別演奏会）

参考文献

Baker-Carr, Janet (1977). Evening at Symphony. Boston: Houghton Mifflin. ISBN 0-395-25697-6
Leinsdorf, Erich (1976). Cadenza. Boston: Houghton Mifflin. ISBN 0-395-24401-3
Monteux, Doris (1965). It's All in the Music. New York: Farrar, Straus & Cudahy
オットー・シュトラッサー 著、芹澤ユリア 訳『栄光のウィーン・フィル ― 前楽団長が綴る半世紀の歴史』音楽之友社、1977年。ISBN 4276217806。

外部リンク

シャルル・ミュンシュ - Allmusic
František Sláma (musician) Archive. More on the history of the Czech Philharmonic between the 1940s and the 1980s: Conductors

もう一度検索