パルティータ (バッハ)

バッハ：クラヴィーア練習曲第1巻（6つのパルティータ）BWV 825-830

ヨハン・セバスチャン・バッハが作曲したクラヴィーアのための6つのパルティータは、彼のクラヴィーア組曲集における集大成と言える作品であり、バッハの作品の中でも最初に出版された曲集として重要な位置を占めています。1726年から1730年にかけて個別に出版された後、1731年に修正の上、合本され『クラヴィーア練習曲集第1巻（第1部）作品1』として発表されました。

この作品集は、後に第4巻までシリーズ化される『クラヴィーア練習曲集』の第1巻にあたりますが、第2巻以降には作品番号は付番されませんでした。楽譜の扉には、作曲者自身の記述として「クラヴィーア練習曲集。プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、メヌエット、その他の典雅な楽曲を含む。愛好人士の心の憂いを晴らし、喜びをもたらさんことを願って、ザクセン＝ヴァイセンフェルス公宮廷現任楽長ならびにライプツィヒ市音楽監督ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲。作品Ｉ。自家蔵版。1731年。」と記されています。

『クラヴィーア練習曲集』という名称やパルティータという形式は、バッハ以前のライプツィヒ聖トーマス教会音楽監督であったクフナウの『新クラヴィーア練習曲集』に倣ったものとされています。「練習曲（Übung）」の具体的な意味は不明ですが、現代における演奏技巧習得のための練習曲とは異なる意味合いを持っていたと考えられます。

各パルティータの特徴

6つのパルティータはそれぞれ異なる性格を持ち、導入楽章の名称にも違いが見られます。イギリス組曲と同様に導入楽章を持つものの、その名称はプレリューディウム、シンフォニア、ファンタジア、ウーヴァテューレ、プレアンブルム、トッカータと、多様性を見せています。これは、単なる慣習にとどまらず、バッハの意図的な選択であったと推測できます。

楽曲構成においては、古典舞曲であるアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグに加え、イタリア風の舞曲であるコレンテ、メヌエット、カプリッチョ、ブルレスカ、スケルツォ、パスピエ、テンポ・ディ・ミヌエッタ、テンポ・ディ・ガヴォッタなどが用いられています。特にコレンテは、イタリア風の舞曲の影響が強く表れており、音楽史家市田儀一郎は、このパルティータは「イタリア趣味」に傾斜しており、「イタリア組曲」と呼んだ方が適切ではないかと指摘しています。しかしながら、それは単なる流行に追随したものではなく、バッハの高度な構成力と熟練の技法によって、バロック組曲の頂点に位置する作品に昇華されていると言えるでしょう。

各パルティータの構成

各パルティータは、以下の楽章で構成されています。

第1番 変ロ長調 BWV 825: プレリューディウム、アルマンド、コレンテ、サラバンド、メヌエット1、メヌエット2、ジーガ
第2番 ハ短調 BWV 826: シンフォニア、アルマンド、クーラント、サラバンド、ロンドー、カプリッチョ
第3番 イ短調 BWV 827: ファンタジア、アルマンド、コレンテ、サラバンド、ブルレスカ、スケルツォ、ジーガ
第4番 ニ長調 BWV 828: ウーヴァテューレ、アルマンド、クーラント、アリア、サラバンド、メヌエット、ジーガ
第5番 ト長調 BWV 829: プレアンブルム、アルマンド、コレンテ、サラバンド、テンポ・ディ・ミヌエッタ、パスピエ、ジーガ
第6番 ホ短調 BWV 830: トッカータ、アレマンダ、コレンテ、エール、サラバンド、テンポ・ディ・ガヴォッタ、ジーガ

これらのパルティータは、それぞれ異なる性格を持ちながらも、バッハの高度な作曲技法と音楽的深みによって、聴く者を魅了する傑作となっています。第1番はケーテン侯レオポルトの嫡子の誕生祝いに献呈されたとされ、第3番と第6番にはアンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳に初稿が残されています。これらの背景も踏まえると、この作品集の完成度の高さが一層際立ちます。

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