パルボウイルス

パルボウイルス：小型DNAウイルスとその影響

パルボウイルスは、直径わずか20nmの非常に小さな球状ウイルスで、エンベロープを持たないのが特徴です。その名の由来はラテン語で「小さい」を意味するparvusに由来し、自然界最小クラスのウイルスに分類されます。パルボウイルス科には様々な種類が存在し、多くの場合、特定の動物種にのみ感染します。例えば、犬パルボウイルスはイヌ科動物に感染しますが、ネコやヒトには感染しません。この高い宿主特異性もパルボウイルスの重要な特徴です。一部の種は、増殖に他のウイルス（ヘルパーウイルス）を必要とする欠損ウイルスでもあります。

パルボウイルスの分類

パルボウイルス科は、以下の亜科、属に分類されます。

パルボウイルス亜科 (Parvovirinae):
パルボウイルス属 (Parvovirus): 犬パルボウイルス、猫パルボウイルス（猫汎白血球減少症の原因ウイルス）など
エリスロウイルス属 (Erythrovirus): ヒトパルボウイルスB19など
ディペンドウイルス属 (Dependovirus): アデノ随伴ウイルスなど
ボカウイルス属 (Bocavirus): 牛パルボウイルス、ヒトボカウイルスなど
デンソウイルス亜科 (Densovirinae): 様々な昆虫などに感染するウイルスを含む

犬パルボウイルス感染症

犬パルボウイルスは、イヌ科動物の間で感染が広がるウイルスです。1976年以降、世界的に急激に広まりましたが、そのウイルス構造自体は、それ以前から知られていた猫パルボウイルスと類似しており、猫パルボウイルスからの変異が疑われています。

感染経路

感染経路は主に経口感染と経胎盤感染です。ウイルスを排出している犬との接触、糞便や吐物、それらの飛沫や粉塵の経口・経鼻摂取によって感染が成立します。公園や動物病院など、多くの犬が集まる場所では感染リスクが高まります。妊娠中の母犬が感染すると、胎盤を通じて胎児に感染し、死産や流産につながる可能性があります。

症状

潜伏期間は2～12日です。初期症状は食欲不振、元気消失、嘔吐などです。ウイルスは、心筋細胞、腸陰窩細胞、骨髄細胞など、分裂が盛んな細胞に感染し、細胞破壊を引き起こします。

心筋型: 若齢犬では心筋炎による心不全で突然死することがあります。
腸炎型: 腸陰窩細胞の破壊による激しい下痢（水様性粘血便）、白血球減少による二次感染、DIC（播種性血管内凝固症候群）などを引き起こし、多臓器不全で死亡する可能性があります。

診断と治療

診断は、臨床症状（元気消失、嘔吐、下痢、特徴的な血便など）と、糞便中のウイルス抗原検査、血液検査（白血球減少）で行われます。特効薬はなく、対症療法が中心です。脱水症状への対応、二次感染予防のための抗生物質投与、猫インターフェロン製剤の投与などが行われます。

予防

犬パルボウイルスは環境抵抗性が非常に強く、適切な消毒剤（高濃度次亜塩素酸ナトリウムなど）を使用しなければ不活化できません。予防には、ワクチン接種と健康管理が重要です。母犬から移行抗体を受け継いだ仔犬は生後6週齢頃まではある程度の免疫を持っていますが、その後はワクチン接種が必要です。

猫パルボウイルス（猫汎白血球減少症ウイルス）

猫パルボウイルスは、猫汎白血球減少症（別名：猫ジステンパー）を引き起こすウイルスです。犬パルボウイルスと性質が非常に似ており、感染経路、症状、治療法も同様です。多頭飼いの場合、感染拡大のリスクが高いため注意が必要です。予防には、3種混合ワクチン（猫伝染性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症）の接種が重要です。

ヒトパルボウイルスB19

ヒトパルボウイルスB19は、ヒトにのみ感染するパルボウイルスです。骨髄の赤血球前駆細胞に感染します。1974年に発見され、1983年には第5病（伝染性紅斑、りんご病）の原因ウイルスとして特定されました。

感染経路

飛沫感染と母子感染が主な経路です。近年、血漿分画製剤からの感染も報告されています。春季に流行する傾向があります。

症状

潜伏期間は約1週間です。発熱、悪寒、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。子供では、両頬に特徴的な発疹が現れます。成人では関節炎を併発することもあります。重症例では重度の貧血や、妊婦では胎児水腫・流産・死産のリスクがあります。

予防

現在、ヒトパルボウイルスB19に対するワクチンは存在しません。

まとめ

パルボウイルスは、宿主特異性が高く、様々な動物種に感染するウイルスです。それぞれのウイルスに対する感染経路、症状、治療法、予防法を理解し、適切な対策を行うことが重要です。

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