パルマ大聖堂 (イタリア)

パルマ大聖堂

イタリア北部、エミリア・ロマーニャ州の歴史ある都市パルマに位置するパルマ大聖堂（正式名称：サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂）は、中世の都市景観を色濃く残すドゥオモ広場の中心的な存在です。広場の東側に堂々と建ち、南には八角形の洗礼堂、西には司教館が隣接しており、これら一連の建造物が一体となって、イタリアロマネスク建築の優れた範例を形成しています。2006年には献堂から900周年を迎え、その長い歴史と芸術的重要性を示しています。

歴史

パルマ大聖堂の建設は、中世コムーネが興隆し始めた11世紀中頃、司教カダロによって着手されました。現在の姿に近い形が完成したのは12世紀末頃とされています。祭壇の聖別は、12世紀初頭の1106年にパスカリス2世によって行われました。建設途中には地震の影響もありましたが、1170年頃にはひとまずの完成を見ます。この時期には洗礼堂や司教館も建設されましたが、その後も断続的に増改築や装飾が続けられました。

13世紀に入ると、教会の正面入り口にあたるプロテュルムが13世紀末に増築されました。このプロテュルムには、1281年にジャンボーノ・ダ・ビッソーニ作とされるライオンの彫刻が配されています。同じく13世紀末には、大聖堂の正面右手にレンガ造りの鐘塔が建設され、外観にアクセントを加えています。16世紀初頭には、ルネサンス期の巨匠コレッジョが中央祭壇上部の円蓋に壮大なフレスコ画『聖母被昇天』を描き、大聖堂内部を象徴する傑作となりました。また、16世紀の内陣改築に伴い、彫刻家ベネデット・アンテーラミ作の石彫パネル『十字架降架』が撤去され、南翼廊へ移設されています。

大聖堂の建築

外観

大聖堂の外観は、基本的にロマネスク様式の重厚な雰囲気を保っており、後世の装飾による華美さとは一線を画しています。ファサード（西面）はドゥオモ広場に面し、砂岩で構築されています。上部から3層のアーケードと扉口で構成され、中央の扉口には13世紀末に増築されたプロテュルムが付加されています。最上部の、屋根に沿って並ぶアーケードのギャラリーは、ロンバルディア地方やこの地域でよく見られる特徴的な装飾で、「小人ギャラリー」とも称され、ピサ大聖堂などトスカーナ地方の建築にも影響を与えたとされます。13世紀末に加わったゴシック風の鐘塔は、教会堂のファサードを華やかに見せるために10世紀以降に各地で好まれた形式です。

内部

西側から入ると、内部は基本的なバシリカ様式の3廊式構造となっています。身廊の上部は、高窓（クリアストーリー）、トリビューン、そして大きなアーケードによって構成されています。その奥には翼廊、内陣、後陣が続き、地下にはクリプト（地下聖堂）も備えられています。天井は交差ヴォールトが連続し、この天井と壁面全体は、16世紀に複数の画家によって描かれた色鮮やかなフレスコ画で埋め尽くされています。中でも特筆すべきは、地上約25メートルの円蓋に描かれたコレッジョの『聖母被昇天』です。4年の歳月をかけて制作されたこのルネサンス絵画は、「天井画の一つの完成形」として高く評価されています。

洗礼堂

大聖堂の南隣に建つ洗礼堂は、ベネデット・アンテーラミの設計・指導のもと、1196年から1216年頃にかけて建設されたと伝えられています。八角柱の独特な形状を持ち、高さは約35メートルに及びます。外面はピンク色の石材で覆われており、大聖堂と同様に多層構造のギャラリー（ここでは4層）と、最上部の尖頭アーチからなるブラインド・アーケードが特徴的です。屋上の8つの小塔は後年に加えられたものですが、これらの要素はロマネスク様式からゴシック様式への移行期を示唆しています。

洗礼堂には3つの扉口があり、北側の扉にはアンテーラミ自身の銘が刻まれています。また、北西の壁龕には、ダビデとイザヤ像、ソロモン王とシバの女王の像が配されており、これらもアンテーラミの作品とされています。

洗礼堂の内部は外面の八角形とは異なり、16面構造となっています。天井は16本の柱から伸びるリブによって支えられています。1階部分の壁面と天井は、大聖堂と同様にフレスコ画で豪華に装飾されています。2階以降の層には装飾のないギャラリーがあり、その柱間にアンテーラミ作とされる浮彫りや丸彫りの像が設置されています。特に、12ヶ月の擬人像や冬と春の擬人像は、「労働」や「恵み」への感謝を表現した主題として、北イタリアのロマネスク彫刻の中でも傑出した例としてしばしば言及されます。その他、黄金12宮などの彫刻も見られます。

ベネデット・アンテーラミについて

ベネデット・アンテーラミは、12世紀末から13世紀にかけて活躍した彫刻家であり、建築家でもあったとされています。彼の活動は主にパルマ大聖堂や洗礼堂の仕事で知られています。彼の作品で明確にアンテーラミの銘が確認できるのは、パルマ大聖堂南翼廊にある『十字架降架』と、パルマ洗礼堂の北扉の2点のみです。

アンテーラミの経歴については不明な点が多く、その作風からフランスのプロヴァンス地方などで修行を積んだ後にパルマに来たという説や、パルマでの制作中にフランスへ渡り建築も学んだという説などがあります。彼は大規模な建築彫刻工房を率い、イタリア各地の彫刻や建築に影響を与えたとも考えられており、ニコラ・ピサーノを弟子とする説までありました。しかし、これらの多くは直接的な一次資料に基づくものではなく、推測の域を出ません。

アンテーラミの評価は時代によって大きく変動しています。彼をイタリア中世彫刻の革新者とする高い評価は、18～19世紀の芸術論によって形成されました。しかし、20世紀中頃からは、北イタリアのロマネスク芸術はフランスの影響ではなく独自に発展したものであり、アンテーラミは単に銘を残すほどの優れた彫刻家であったに過ぎない、といった異論も提起されています。近代の芸術家と異なり、この時代の彫刻家や建築家の名前が後世に伝わることは稀であり、18～19世紀の芸術論や当時の社会情勢によって評価が過大になった可能性も指摘されています。

アクセス

パルマへのアクセスは、最寄りのパルマ空港への日本からの直行便はないため、ミラノやローマなど他の主要都市を経由するのが一般的です。ミラノ中央駅からは鉄道で約1時間強、ローマ・ティブルティーナ駅からは約6時間強でパルマ駅に到着します。車を利用する場合、ミラノからは南東へA1号線を、ローマからは北へA1号線を利用しますが、ローマからは距離があります。これらの主要都市以外に、ヨーロッパの他の都市からの航空便を利用することも可能です。

パルマ大聖堂と洗礼堂は、その歴史、建築様式、そして内部に収められた芸術作品において、訪れる者に深い感銘を与える重要な文化遺産です。

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