パルミラのアウレリアーノ

ロッシーニ『パルミラのアウレリアーノ』：史実を彩る愛と葛藤のオペラ

『パルミラのアウレリアーノ』（イタリア語: Aureliano in Palmira）は、19世紀初頭のイタリアを代表する作曲家、ジョアキーノ・ロッシーニによって作曲された2幕構成のオペラ・セリアです。1813年12月、ミラノのスカラ座で初演され、フェリーチェ・ロマーニがリブレットを手掛けました。物語は、3世紀のローマ皇帝アウレリアヌスが、女王ゼノビアの治めるパルミラを征服した史実を基にしています。

歴史的背景とロッシーニの挑戦

ロッシーニは、『タンクレーディ』と『アルジェのイタリア女』の上演成功により、すでにヴェネツィアで名声を確立していました。その後ミラノに移り、スカラ座のために過去の作品の再演と新作の制作に取り組みました。『パルミラのアウレリアーノ』は、パスクワーレ・アンフォッシ作曲の『パルミラのゼノビア』のリブレットを改変して使用しており、ロッシーニは過去の作品に新たな息吹を吹き込むことに挑戦しました。

この作品で特筆すべきは、ロッシーニが唯一カストラートを主要な役柄に起用したオペラであるという点です。ペルシアの王子アルサーチェ役には、当時著名なカストラート歌手ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴェッルーティが配役されました。しかし、タイトルロールであるアウレリアーノ役のテノール歌手が急病により降板するなど、初演前から困難に見舞われました。

物語の展開

物語は、ローマ皇帝アウレリアーノとパルミラの女王ゼノビア、そしてペルシアの王子アルサーチェの三角関係を中心に展開します。アウレリアーノはパルミラを征服し、ゼノビアを我が物にしようとしますが、ゼノビアはアルサーチェと愛し合っています。プブリアはアルサーチェを密かに愛しており、彼女の感情も物語に複雑な彩りを添えます。

第1幕では、パルミラの人々がイシス神に祈りを捧げる中、ローマ軍の侵攻が迫ります。アルサーチェはゼノビアとの別れを惜しみつつ、迎撃へと向かいます。アウレリアーノはペルシア軍を破り、捕虜となったアルサーチェにゼノビアとの縁を切るよう迫りますが、アルサーチェは拒否します。ゼノビアはアウレリアーノにアルサーチェの解放を求めますが、これも拒絶されます。

第2幕では、パルミラが陥落し、ゼノビアは捕虜となります。アウレリアーノはゼノビアに言い寄りますが、彼女は拒み続けます。アルサーチェは脱走し、ゼノビアを救うために再び立ち上がります。最終的に、アルサーチェとゼノビアはローマ軍に捕らえられそうになりますが、プブリアの献身的な行動により、アウレリアーノは彼らに慈悲をかけ、パルミラの統治を許します。

音楽的特徴と再利用

『パルミラのアウレリアーノ』は、ロッシーニの初期の作品であり、彼の音楽的特徴が随所に見られます。特に有名なのは、後に『セビリアの理髪師』の序曲として再利用された楽曲です。また、冒頭の合唱は伯爵のアリア「空はほほえみ」に転用されるなど、他の作品への転用も多く見られます。

その後の評価と再演

初演こそ失敗に終わったものの、『パルミラのアウレリアーノ』はその後、イタリア国内外で再演され、成功を収めました。しかし、その後は忘れ去られ、1980年にジェノヴァで再演されるまで、日の目を見ることはありませんでした。近年では、バート・ヴィルトバート音楽祭などで上演され、再び注目を集めています。

『パルミラのアウレリアーノ』は、ロッシーニの初期の作品でありながら、彼の才能の萌芽を感じさせる作品です。歴史的な背景を基に、愛と政治、忠誠心といった普遍的なテーマを描き出し、聴衆を魅了します。

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