パロス・デ・ラ・フロンテーラ

パロス・デ・ラ・フロンテーラ（スペイン語: Palos de la Frontera）は、スペイン南部のアンダルシア州、ウエルバ県に属する自治体です。単にパロスと呼ばれることもあります。

地理

ウエルバ市に近接し、ティント川とオディエル川が形成する広大な河口（リア・デ・ウエルバ）の東岸に位置しています。カディス湾に面した海岸部には、ラムサール条約湿地に登録されているラグーンが点在しています。この地域は、カオジロオタテガモ、カンムリサギ、アフリカオオバン、アカハシハジロ、メジロガモ、ヨーロッパチュウヒ、ミサゴといった様々な鳥類の繁殖地および越冬地として重要な自然環境を保全しています。

地名の由来

この地名は、ローマ時代の名称であった「パルス（Palus）」に由来すると考えられています。「パルス」はラテン語で「潟」を意味し、かつての地理的な特徴を示唆しています。1642年に自治権が認められた際、「パロス・デ・ラ・フロンテーラ」が正式名称として定められました。

歴史

この地に人類が定住を始めたのは、遠く新石器時代に遡ると考えられています。その後、タルテッソス文明、ローマ帝国、西ゴート王国、イスラム勢力の支配を経て、1322年にカスティーリャ王アルフォンソ11世によってアロンソ・カーノ夫妻に授与されました。この年がパロスの発祥とみなされています。当時のパロスはイスラムとの前線に近く、人口はわずかでした。住民の多くは漁民であり、風や海賊から身を守るためにティント川内部に港を築いて生活していました。

1379年には、フアン1世からパロスを譲り受けたアルバル・ペレス・デ・グスマンが、パロスの実質的な創建者とされています。彼は50家族を移住させ、痩せた土地にオリーブを植樹し、オリーブ油の生産を奨励することで町の経済基盤を築きました。彼の死後、土地は娘たちによって分割相続され、一方は子孫であるメディナ＝シドニア公家へ、もう一方は1492年にカトリック両王が王領として購入しました。

15世紀には人口が約2500人に達し、漁業とそれに伴う地中海および北大西洋貿易で栄えました。遠くギニアとの交易も行われていたと言われます。

特に1470年から1479年にかけては、パロスの黄金時代と称されます。この時期、カスティーリャ王国は王位継承を巡る内戦状態にあり、フアナ・ラ・ベルトラネーハを支持する勢力と、後のイサベル1世を支持する勢力が対立していました。フアナと結婚してカスティーリャ王位を狙った隣国ポルトガルのアフォンソ5世は、アフリカ貿易や海外進出においてカスティーリャの強力な競争相手でした。カスティーリャ海軍がポルトガル遠征を行う際には、パロス出身の熟練した船乗りたちが常に重要な役割を果たし、これによりパロスの名は広く知られ、揺るぎない名誉を得ました。

しかし、海軍遠征はカトリック両王側の敗北に終わり、1479年のアルカソバス条約によって、カスティーリャはカナリア諸島を除く大西洋・アフリカ沿岸の権益をポルトガルに譲渡することになります。スペインとポルトガルは王女の婚約によって形式的に和解しましたが、パロスの船乗りの中には条約を無視してポルトガルの貿易船を襲撃する者もいました。

1490年から約2年間、クリストファー・コロンブスはパロスにあるラ・ラビダ修道院に滞在しました。コロンブスを支援した修道院長は、イサベル1世の告解師であったシスネロス枢機卿に彼を紹介しました。そして1492年8月3日、コロンブスが指揮する船団がパロス港から新大陸に向けて出帆しました。この船団には、パロス出身の有名な船乗りであるピンソン兄弟も加わっており、兄マルティン・アロンソ・ピンソンはピンタ号、弟ビセンテ・ヤーニェス・ピンソンはニーニャ号の船長を務めました。

コロンブスによる新大陸到達が実現すると、これを機に新大陸との貿易が飛躍的に拡大し、同時にキリスト教の布教活動も熱心に進められるようになりました。パロスからは、ラ・ラビダ修道院を中心とするフランチェスコ会をはじめ、多くの宣教師たちが海を渡っていきました。

コロンブスの航海成功後、カトリック両王はセビーリャに定住し、1503年にはスペイン本土、西インド諸島、カナリア諸島、北アフリカ沿岸バルバリアとの貿易を一元管理する貿易院を設置しました。アンダルシア沿岸の各港からセビーリャへと貿易の中心が移管された結果、パロスは急速にその重要性を失い衰退していきました。新大陸貿易に惹きつけられた住民の多くは、アメリカ大陸やセビーリャへと移住し、パロスはかつての賑わいを失い、ほとんど貿易船が見られない漁村へと変貌しました。わずかに残った漁民も、近隣の村の船に雇われるか、他地域への移住を余儀なくされました。その後3世紀にわたり、パロスの住民は主に農業で生計を立て、18世紀半ばの人口はわずか約125人にまで減少しました。しかし、同じ時期にカタルーニャ出身の投資家によってブドウ栽培が導入されると、これが軌道に乗り、徐々に人口は1492年以前の水準にまで回復しました。

経済

かつては海に面していることから漁業と貿易が主要産業でしたが、新大陸への大規模な移民を経て、現在は漁船や貿易船は少なく、農業が主要な経済活動となっています。20世紀後半からは、EU市場向けの農産品輸出が盛んになり、特に特産のイチゴ（商標登録された「フレソン・デ・パロス」）、ワイン、ハモン・イベリコなどが知られています。また、石油・ガス精製関連の産業も行われています。

主な史跡

サン・ホルヘ教会: ゴシック様式とムデハル様式が融合した建築。
マルティン・アロンソ・ピンソン博物館: 航海者ピンソン兄弟に関する資料を展示。
ラ・ラビダ修道院: コロンブスが滞在し、航海を支援した歴史的な場所。
カラベラ船停泊地: コロンブス船団のニーニャ号、ピンタ号、サンタ・マリア号の復元船が展示されています。

主な出身者

マルティン・アロンソ・ピンソン（航海者）
ビセンテ・ヤーニェス・ピンソン（航海者）
フアン・ベルムデス（es）（航海者、バミューダ諸島発見者とされる）
ゴンサロ・ゲレーロ（航海者、ユカタン半島に漂着しマヤ社会で生活）
* フアン・イスキエルド（ユカタン司教）

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