パンゼーの乱

パンゼーの乱：19世紀雲南を揺るがした回族の反乱

パンゼーの乱は、1856年から1873年にかけて、現在の中国雲南省で発生した大規模な武装蜂起です。この反乱は、回族を中心としたムスリム系民族が、清朝の支配に対して立ち上がったもので、中国では「雲南回変」「雲南回民起義」「杜文秀起義」などとも呼ばれています。「パンゼー」とは、ビルマ（現ミャンマー）人が雲南回民（チン・ホー族）を指す言葉です。

反乱の背景

この反乱の直接的な原因は、1853年に錫鉱山で働いていた回族と漢族の労働者の間で起こった対立が暴動に発展したことです。翌年、清朝当局が鎮圧に乗り出し、回族の虐殺を行ったことが、回族の不満を爆発させました。当初の指導者の一人であった馬徳新は、自身の権力拡大にのみ執着し、1861年には清朝に投降しました。その後、指導者となったのが永昌府出身の回族、杜文秀です。

戦いの経過

1856年、武装蜂起軍は大理を占拠し、ここを拠点として清朝からの独立を宣言。「平南国」という回教自治政権を樹立しました。指導者である杜文秀は、スルタン・スレイマンを名乗りました。

武装蜂起軍は、1857年、1861年、1863年、1868年の4度にわたり、雲南省の省都である昆明を包囲攻撃しました。また、回族の指導者であった馬如龍も、1862年に昆明を攻撃しましたが、清朝から役職を与えられて寝返りました。この寝返りに不満を持った部下たちは、1863年に馬如龍の不在中に雲貴総督の潘鐸を殺害し、昆明を奪取して杜文秀に引き渡そうとしました。しかし、杜文秀軍が到着する前に、馬如龍が清朝の岑毓英の支援を受けて昆明の支配権を奪還しました。

その後、清朝は、寝返った回民や漢民族の民間人からなる軍隊を組織し、情勢を維持しました。フランス製の大砲をはじめとするヨーロッパの最新兵器を導入したことで、戦局は清朝側に有利に傾きました。武装蜂起軍は、イギリスに国家としての承認と軍事支援を求めましたが、拒否されました。1871年末には、武装蜂起軍の拠点は杜文秀がいた大理のみとなり、1873年1月15日、杜文秀は政府軍の陣営に向かい、失神した状態で死亡しました。

反乱の結果

この反乱による死者は100万人に達し、生き残った多くの回族は難民となり、周辺のビルマ、タイ、ラオスなどに逃れました。これらの国に存在する中国系回族のルーツは、このパンゼーの乱にあります。

ミャンマーへの影響

パンゼーの乱は、当時のミャンマー（コンバウン王朝）にも大きな影響を与えました。イギリスとの戦争で下ビルマ南部を失い、穀倉地帯を失ったミャンマーは、それまで清から米を輸入していました。しかし、パンゼーの乱が勃発すると、清朝の怒りを買うことを恐れたミャンマーは、清朝の要請に応じて武装蜂起軍との交易を停止しました。これにより、米の輸入源を失ったミャンマーは、イギリスからの輸入に頼らざるを得なくなりました。また、当時のミャンマー経済は清への綿花輸出に大きく依存していましたが、パンゼーの乱によって、それも不可能になりました。

まとめ

パンゼーの乱は、19世紀の雲南地方を舞台にした、回族と清朝との間の激しい戦いでした。この反乱は、回族社会に大きな影響を与えただけでなく、周辺国にも大きな波紋を広げました。特にミャンマーにおいては、経済的な混乱を招き、その後の歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。この事件は、単なる地域紛争としてではなく、当時の社会情勢や国際関係を理解する上で重要な歴史的出来事として、深く考察する必要があると言えます。

参考文献

張承志『回教から見た中国』中央公論社〈中公新書〉、1993年。ISBN 4-12-101128-7。

関連項目

雲南問題
回民蜂起
ヤクブ・ベクの乱

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