パンダロス

パンダロス（古希: Πάνδαρος, ラテン語: Pandarus）は、古代ギリシアの物語、特にホメロスの叙事詩『イリアス』に登場する重要な人物です。ゼレイアという地を治める王リュカーオーンの子として生まれ、エウリュティオーンという兄弟がいました。彼は並外れた弓の腕前を持つ射手として名高く、その技術は多くの兵士から一目置かれていました。

トロイア戦争が長期化し、十年目を迎える頃、パンダロスは自身の率いる援軍を率いてトロイア軍の味方として戦場に加わります。父リュカーオーンは彼に戦車に乗って参戦することを勧めましたが、パンダロスは、もしトロイアが籠城戦となった場合、多くの兵士が集まる都市内で馬の飼料が不足することを憂慮し、個人的な判断として敢えて徒歩で戦場へ赴くことを選びました。

戦争のさなか、トロイアの王子パリスとスパルタ王メネラーオスが一騎打ちを行い、ヘレネーの帰属を決めることとなりました。この間、両軍は休戦協定を結び、二人の戦いを見守っていました。しかし、一騎打ちでパリスが不利な状況に陥ると、愛と美の女神アプロディーテーは彼を戦場から救い出し、安全な場所へと運び去りました。これを見て、ギリシア側の優位を崩したいと考えた女神アテーナーは、トロイアの賢者アンテーノールの子ラーオドコスの姿に化け、パンダロスに近づきました。そして、休戦中のメネラーオスに矢を射かけ、戦闘を再開するよう巧みにそそのかしたのです。アテーナーの言葉に乗り、パンダロスはメネラーオスを狙って弓を引き絞り、矢を放ちました。彼の矢は見事にメネラーオスに命中しましたが、休戦を破る大罪を犯させつつも、ギリシア側の主要な英雄を失わせたくなかったアテーナーは、矢が急所から逸れるようにその軌道を微妙に変えました。これにより、メネラーオスは深い傷を負ったものの、命は無事でした。このパンダロスの一射によって休戦は破られ、両軍は再び激しい戦闘を開始しました。

戦闘が再開されると、ギリシア軍の英雄ディオメーデースが神々の加護を受けて圧倒的な活躍を見せ、多くのトロイア兵を蹴散らし始めました。パンダロスはこれを見て、自らの弓でディオメーデースを止めようと矢を放ちました。彼の放った矢はディオメーデースに当たり、深い傷を負わせることに成功します。しかし、アテーナーの強力な加護を受けていたディオメーデースは、傷つきながらも以前にも増して奮戦し、トロイア軍を一層苦しめました。自身の得意とする弓矢が、ディオメーデースに与えられた神の加護には通用しないことを悟ったパンダロスは、その威力に苛立ちを感じ、父の助言に反して戦車で来なかったことを深く後悔しました。

その後、アイネイアースに促されたパンダロスは、彼の戦車に同乗して再びディオメーデースに挑みます。パンダロスはディオメーデースに向かって槍を投げつけました。その槍はディオメーデースが構えた楯を貫通しましたが、幸いにも彼の身体には届きませんでした。対するディオメーデースは、アテーナーの導きを得て自らの槍をパンダロスめがけて投げ返しました。その槍はパンダロスの身体を貫き、彼はその場で命を落としました。

パンダロスが討たれた後、共に戦っていたアイネイアースは彼の遺体を守ろうと奮闘しましたが、ディオメーデースに巨大な石を投げつけられて深く傷つき、さらにはトロース王の血を引く名馬、すなわちアイネイアースの戦車を引いていた馬をも奪われてしまいました。パンダロスの死は、トロイア軍にとって有能な弓の名手と重要な兵士の喪失を意味し、戦況に影響を与えました。彼は、神の計略によって休戦を破り、そして神の加護を持つ英雄との戦いに敗れた悲劇的な人物として、物語にその名を残しています。

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