エウリュティオーン
エウリュティオーン（古希: Εὐρυτίων）という名前は、ギリシア神話において複数の人物に用いられています。長母音を省略してエウリュティオンと表記されることもあります。以下に、特に重要な伝承を持つ幾人かのエウリュティオーンについて解説します。
このエウリュティオーンは、三つの胴体を持つ巨人ゲーリュオーンに仕えていた牛飼いです。伝説によれば、ゲーリュオーンは地の果てにあるとされるエリュテイア島（現在のスペイン西部に位置するガデイラ付近と考えられています）に広大な牛の群れを所有しており、エウリュティオーンはその番犬である双頭犬オルトス（またはオルトロス）と共に牛たちの世話をしていました。
ヘーラクレースが十二の難行の一つとしてゲーリュオーンの牛を奪いに来た際、エウリュティオーンとオルトスはこれに立ち向かいます。古代ギリシアの詩人ヘーシオドスの『神統記』では、ヘーラクレースによって彼らと牛が奪われたことが簡潔に述べられています。
一方、ローマ時代の著述家アポロドーロスによれば、ゲーリュオーンの牛を奪うというヘーラクレースの10番目の難行において、まずオルトスがヘーラクレースに襲いかかりますが、彼はヘーラクレースの棍棒によって打ち倒されます。エウリュティオーンはオルトスを助けようと駆け寄りますが、同じくヘーラクレースに殺されてしまいます。しかし、歴史家シケリアのディオドーロスの記述では、このエピソードにエウリュティオーンもオルトスも登場しない異説も存在します。
もう一人のエウリュティオーンは、半人半馬の種族であるケンタウロスの一員です。彼はイクシーオーンとネペレーの子孫とされます。旅行家パウサニアースの記録によると、彼はラピテース族の王ペイリトオスとヒッポダメイアの結婚式に招かれた多くのケンタウロスのうちの一人であり、この式典でケンタウロス族が引き起こした争乱（ケンタウロマキア）に参加しました。オリンピアのゼウス神殿後部破風の彫刻群には、彼がヒッポダメイアを攫おうとしてラピテース族の英雄たちと争う場面が表現されていたとパウサニアースは伝えています。
また、彼はヘーラクレースの冒険譚にも登場します。エリュマントスの猪を捕獲する旅の途中で、ヘーラクレースがケンタウロスのポロスの洞窟を訪れた際、ヘーラクレースが共有の酒甕を開けたことで酒の匂いを嗅ぎつけた他のケンタウロスたちが集まり、ヘーラクレースと戦いになりました。エウリュティオーンもこの戦いに加わっていましたが、ヘーラクレースに追われてマレアー岬まで逃走し、そこからさらにポロエーへ向かったとされます。
その後、彼はアカイア地方の都市オーレノスを訪れ、デクサメノス王の娘ムネーシマケーに強引に求婚しました。デクサメノス王はエウリュティオーンの荒々しい性格を恐れ、やむなく結婚を承諾します。しかし、ちょうどその頃、5番目の難行であるエーリス王アウゲイアースの家畜小屋の掃除を終えたヘーラクレースがオーレノスを訪れます。デクサメノス王から助けを求められたヘーラクレースはこれに応じ、ムネーシマケーを迎えに来たエウリュティオーンを討ち果たしました。
エウリュティオーンの死にはいくつかの異なる伝承があります。神話集の著者ヒュギーヌスによると、求婚相手はデクサメノスの娘デーイアネイラで、彼女はすでにヘーラクレースと婚約していましたが、王はエウリュティオーンとの結婚を認めました。しかし、エウリュティオーンが仲間と共に結婚式に現れた際に、ヘーラクレースに殺されたとされます。
また、シケリアのディオドーロスによれば、ヘーラクレースがアウゲイアースの報酬不払いに対する報復戦争でエーリス地方に勝利できず、デクサメノスの元へ退却した際にエウリュティオーンを討ったとされます。この時、オーレノスではデクサメノスの娘ヒッポリュテーとアルカスの子アザーンの結婚式が行われており、ヘーラクレースがこれに出席した際、花嫁を奪おうとしたエウリュティオーンを退治したという筋書きになっています。ヘレニズム期の詩人ヘルメーシアナクスのエレゲイア詩には、このエウリュティオーンのデクサメノス王の娘への悲恋を歌った作品があったとパウサニアースは伝えています。
このエウリュティオーンは、テッサリアー地方のプティーアーという都市の王でした。彼はアクトールの子イーロスとデーモーナッサの子、あるいは単にアクトールの子でエウリュダマースと兄弟であったとも伝えられます。彼にはアンティゴネーという名前の娘がいました。
彼はギリシア神話の重要な冒険であるカリュドーンの猪狩りや、イアーソーン率いるアルゴー船の遠征に参加した英雄の一人です。
故郷を追放されてプティーアーに亡命してきたペーレウス（後のアキレウスの父）を、エウリュティオーンは手厚く迎え入れます。彼はペーレウスの犯したポーコス殺しの罪を浄め、さらに娘のアンティゴネーを妻として与え、プティーアーの国土の3分の1をペーレウスの所領としました。その後、エウリュティオーンはペーレウスと共にカリュドーンの猪狩りに参加しますが、悲劇が起こります。狩りの最中、ペーレウスが誤って投げた槍がエウリュティオーンの身に当たり、彼は命を落としてしまいます。オウィディウスの『変身物語』にも彼の名前は狩りの参加者リストにありますが、ペーレウスの誤射による死についての具体的な言及はありません。
義父を殺してしまったペーレウスはプティーアーに戻ることができず、イオールコス王アカストスの宮殿に身を寄せます。しかし、アカストスの妻アステュダメイアに虚偽の告発（ペーレウスが自分を誘惑しようとしたという讒言）をされ、アカストスによってペーリオン山に置き去りにされますが、ケンタウロスの賢者ケイローンに助けられます。さらにアステュダメイアは、ペーレウスが自分の娘ステロペーと結婚しようとしているという嘘の手紙をアンティゴネーに送りつけ、これを知ったアンティゴネーは絶望して首を吊って自殺してしまいます。後にペーレウスはイアーソーンやディオスクーロイと共にイオールコスを攻撃し、アステュダメイアに報復を果たします。
アントーニーヌス・リーベラーリスの記述では、ケイローンに助けられた後のペーレウスが、エウリュティオーン殺害の償いとして家畜を集め、王の父イーロスのもとへ向かったという異伝が紹介されています。しかしイーロスは賠償を受け取らなかったため、ペーレウスは神託に従い家畜を野に放ちました。すると、どこからともなく一頭の狼が現れて家畜を食い尽くし、その後、狼は岩に変わったとされています。オウィディウスは、この狼はポーコス殺しへの報復として海の女神プサマテーが送ったものであると語っています。
このエウリュティオーンは、トロイアに近いゼレイアという都市の王リュカーオーンの息子で、有名な弓の名手パンダロスの兄弟にあたります。彼自身もまた弓の腕に優れていました。トロイア戦争の後、彼は英雄アイネイアースに忠実に従い、共にイタリアへの長い航海に旅立ちました。
ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』では、エウリュティオーンはアイネイアースの父アンキーセースの葬礼競技における弓競技に参加する人物として描かれています。この競技では、的にされた鳩を逃がさないように片足が紐で縛られていました。エウリュティオーンはヒュルタコスの子ヒッポコオーン、ボート競走で勝利したムネーステウス、そして老齢ながら優れたアケステスの4人で技を競います。
一番手のヒッポコオーンと二番手のムネーステウスが放った矢は鳩を外しますが、ムネーステウスの矢は鳩を繋いでいた紐を見事に断ち切ります。これにより鳩は自由になり、空高く飛び去ります。三番手のエウリュティオーンは、飛び立つ鳩を素早く射止め、その技量を示しました。しかし、最後の射手であるアケステスが的のないまま天に向かって矢を放つと、その矢は炎を上げながら飛ぶという神々による予兆が示されました。この奇瑞により、アケステスが特別に1等とされ、エウリュティオーンが2等、ムネーステウスが3等の栄誉を得ました。エウリュティオーンは、たとえ的に当たらなくとも神の意思にはかなわないという形で、その確かな弓の腕を認められました。
ゲーリュオーンの牛飼い
このエウリュティオーンは、三つの胴体を持つ巨人ゲーリュオーンに仕えていた牛飼いです。伝説によれば、ゲーリュオーンは地の果てにあるとされるエリュテイア島（現在のスペイン西部に位置するガデイラ付近と考えられています）に広大な牛の群れを所有しており、エウリュティオーンはその番犬である双頭犬オルトス（またはオルトロス）と共に牛たちの世話をしていました。
ヘーラクレースが十二の難行の一つとしてゲーリュオーンの牛を奪いに来た際、エウリュティオーンとオルトスはこれに立ち向かいます。古代ギリシアの詩人ヘーシオドスの『神統記』では、ヘーラクレースによって彼らと牛が奪われたことが簡潔に述べられています。
一方、ローマ時代の著述家アポロドーロスによれば、ゲーリュオーンの牛を奪うというヘーラクレースの10番目の難行において、まずオルトスがヘーラクレースに襲いかかりますが、彼はヘーラクレースの棍棒によって打ち倒されます。エウリュティオーンはオルトスを助けようと駆け寄りますが、同じくヘーラクレースに殺されてしまいます。しかし、歴史家シケリアのディオドーロスの記述では、このエピソードにエウリュティオーンもオルトスも登場しない異説も存在します。
ケンタウロスの1人
もう一人のエウリュティオーンは、半人半馬の種族であるケンタウロスの一員です。彼はイクシーオーンとネペレーの子孫とされます。旅行家パウサニアースの記録によると、彼はラピテース族の王ペイリトオスとヒッポダメイアの結婚式に招かれた多くのケンタウロスのうちの一人であり、この式典でケンタウロス族が引き起こした争乱（ケンタウロマキア）に参加しました。オリンピアのゼウス神殿後部破風の彫刻群には、彼がヒッポダメイアを攫おうとしてラピテース族の英雄たちと争う場面が表現されていたとパウサニアースは伝えています。
また、彼はヘーラクレースの冒険譚にも登場します。エリュマントスの猪を捕獲する旅の途中で、ヘーラクレースがケンタウロスのポロスの洞窟を訪れた際、ヘーラクレースが共有の酒甕を開けたことで酒の匂いを嗅ぎつけた他のケンタウロスたちが集まり、ヘーラクレースと戦いになりました。エウリュティオーンもこの戦いに加わっていましたが、ヘーラクレースに追われてマレアー岬まで逃走し、そこからさらにポロエーへ向かったとされます。
その後、彼はアカイア地方の都市オーレノスを訪れ、デクサメノス王の娘ムネーシマケーに強引に求婚しました。デクサメノス王はエウリュティオーンの荒々しい性格を恐れ、やむなく結婚を承諾します。しかし、ちょうどその頃、5番目の難行であるエーリス王アウゲイアースの家畜小屋の掃除を終えたヘーラクレースがオーレノスを訪れます。デクサメノス王から助けを求められたヘーラクレースはこれに応じ、ムネーシマケーを迎えに来たエウリュティオーンを討ち果たしました。
エウリュティオーンの死にはいくつかの異なる伝承があります。神話集の著者ヒュギーヌスによると、求婚相手はデクサメノスの娘デーイアネイラで、彼女はすでにヘーラクレースと婚約していましたが、王はエウリュティオーンとの結婚を認めました。しかし、エウリュティオーンが仲間と共に結婚式に現れた際に、ヘーラクレースに殺されたとされます。
また、シケリアのディオドーロスによれば、ヘーラクレースがアウゲイアースの報酬不払いに対する報復戦争でエーリス地方に勝利できず、デクサメノスの元へ退却した際にエウリュティオーンを討ったとされます。この時、オーレノスではデクサメノスの娘ヒッポリュテーとアルカスの子アザーンの結婚式が行われており、ヘーラクレースがこれに出席した際、花嫁を奪おうとしたエウリュティオーンを退治したという筋書きになっています。ヘレニズム期の詩人ヘルメーシアナクスのエレゲイア詩には、このエウリュティオーンのデクサメノス王の娘への悲恋を歌った作品があったとパウサニアースは伝えています。
イーロスの子（プティーアーの王）
このエウリュティオーンは、テッサリアー地方のプティーアーという都市の王でした。彼はアクトールの子イーロスとデーモーナッサの子、あるいは単にアクトールの子でエウリュダマースと兄弟であったとも伝えられます。彼にはアンティゴネーという名前の娘がいました。
彼はギリシア神話の重要な冒険であるカリュドーンの猪狩りや、イアーソーン率いるアルゴー船の遠征に参加した英雄の一人です。
故郷を追放されてプティーアーに亡命してきたペーレウス（後のアキレウスの父）を、エウリュティオーンは手厚く迎え入れます。彼はペーレウスの犯したポーコス殺しの罪を浄め、さらに娘のアンティゴネーを妻として与え、プティーアーの国土の3分の1をペーレウスの所領としました。その後、エウリュティオーンはペーレウスと共にカリュドーンの猪狩りに参加しますが、悲劇が起こります。狩りの最中、ペーレウスが誤って投げた槍がエウリュティオーンの身に当たり、彼は命を落としてしまいます。オウィディウスの『変身物語』にも彼の名前は狩りの参加者リストにありますが、ペーレウスの誤射による死についての具体的な言及はありません。
義父を殺してしまったペーレウスはプティーアーに戻ることができず、イオールコス王アカストスの宮殿に身を寄せます。しかし、アカストスの妻アステュダメイアに虚偽の告発（ペーレウスが自分を誘惑しようとしたという讒言）をされ、アカストスによってペーリオン山に置き去りにされますが、ケンタウロスの賢者ケイローンに助けられます。さらにアステュダメイアは、ペーレウスが自分の娘ステロペーと結婚しようとしているという嘘の手紙をアンティゴネーに送りつけ、これを知ったアンティゴネーは絶望して首を吊って自殺してしまいます。後にペーレウスはイアーソーンやディオスクーロイと共にイオールコスを攻撃し、アステュダメイアに報復を果たします。
アントーニーヌス・リーベラーリスの記述では、ケイローンに助けられた後のペーレウスが、エウリュティオーン殺害の償いとして家畜を集め、王の父イーロスのもとへ向かったという異伝が紹介されています。しかしイーロスは賠償を受け取らなかったため、ペーレウスは神託に従い家畜を野に放ちました。すると、どこからともなく一頭の狼が現れて家畜を食い尽くし、その後、狼は岩に変わったとされています。オウィディウスは、この狼はポーコス殺しへの報復として海の女神プサマテーが送ったものであると語っています。
リュカーオーンの子（トロイア人）
このエウリュティオーンは、トロイアに近いゼレイアという都市の王リュカーオーンの息子で、有名な弓の名手パンダロスの兄弟にあたります。彼自身もまた弓の腕に優れていました。トロイア戦争の後、彼は英雄アイネイアースに忠実に従い、共にイタリアへの長い航海に旅立ちました。
ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』では、エウリュティオーンはアイネイアースの父アンキーセースの葬礼競技における弓競技に参加する人物として描かれています。この競技では、的にされた鳩を逃がさないように片足が紐で縛られていました。エウリュティオーンはヒュルタコスの子ヒッポコオーン、ボート競走で勝利したムネーステウス、そして老齢ながら優れたアケステスの4人で技を競います。
一番手のヒッポコオーンと二番手のムネーステウスが放った矢は鳩を外しますが、ムネーステウスの矢は鳩を繋いでいた紐を見事に断ち切ります。これにより鳩は自由になり、空高く飛び去ります。三番手のエウリュティオーンは、飛び立つ鳩を素早く射止め、その技量を示しました。しかし、最後の射手であるアケステスが的のないまま天に向かって矢を放つと、その矢は炎を上げながら飛ぶという神々による予兆が示されました。この奇瑞により、アケステスが特別に1等とされ、エウリュティオーンが2等、ムネーステウスが3等の栄誉を得ました。エウリュティオーンは、たとえ的に当たらなくとも神の意思にはかなわないという形で、その確かな弓の腕を認められました。
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