パンチェン・ラマ10世

パンチェン・ラマ10世、ロサン・ティンレー・ルンドゥプ・チューキ・ギャルツェンは、1938年に現在の青海省で生まれました。彼はチベット仏教ゲルク派において、ダライ・ラマに次ぐ高位の化身ラマであり、その転生者として1949年に認定されました。

パンチェン・ラマ即位と中国との関係

パンチェン・ラマ10世の即位は、当時の中華民国政府と中国共産党の政治的思惑が絡み合う複雑な状況下で行われました。本来、複数の候補者から選出されるべきでしたが、国共内戦の混乱の中で、中国国民党は彼を一方的にパンチェン・ラマとして擁立しました。その後、中国共産党が実権を握ると、パンチェン・ラマ10世は中国政府の保護を受け、ダライ・ラマ14世に対抗する親中国派の指導者として扱われることになりました。しかし、彼は次第に中国政府のチベット政策に批判的な立場を取るようになります。

七万言上書とチベットへの抑圧

1962年、パンチェン・ラマ10世は中国のチベット支配を批判した「七万言上書」を提出しました。この上書は、中国共産党によるチベットでの過酷な弾圧、飢饉、宗教弾圧、そして文化破壊の実態を詳細に記録しています。特に、大躍進政策による飢饉はチベットでも深刻な被害をもたらし、多くの人々が餓死しました。

「七万言上書」では、中国政府によるチベット人への民族絶滅政策の可能性にも言及しており、その中で、文化大革命以前から寺院が破壊されていた事、宗教弾圧の実情も詳細に記録されています。

上書は、政治的弾圧や飢饉、民族絶滅の危機、そして宗教弾圧について、具体的な事例を挙げながら中国政府を厳しく批判しました。

モンラム・チェモと投獄

1964年には、中国共産党の指示に反して、ダライ・ラマをチベットの指導者と公然と称賛しました。この行動は中国共産党の激怒を買い、パンチェン・ラマ10世は自己批判を強要されることになります。

文化大革命中には、紅衛兵によって10年間も投獄され、その後も軟禁状態が続きました。しかし、彼は困難な状況下でもチベット仏教の保護に尽力し、タシルンポ寺の復興に貢献しました。この誠実さと手腕はチベット人社会から高く評価され、彼を中国共産党の傀儡とみなす見方は薄れていきました。

結婚と急死

文化大革命後、パンチェン・ラマ10世は漢族の女性と結婚しました。これはチベット仏教の僧としては破戒であり、大きな波紋を呼びました。結婚の背景には、中国共産党による圧力があったとも言われていますが、真相は不明です。1989年、パンチェン・ラマ10世は公の場で中国政府のチベット政策を批判し、そのわずか数日後に急死しました。公式には心筋梗塞と発表されましたが、チベット亡命政府は暗殺であると主張しています。

評価と影響

パンチェン・ラマ10世の生涯は、チベットの歴史において重要な意味を持っています。彼は、中国政府の支配下で苦しむチベットの人々の代弁者として、また、チベット仏教の保護者として、その生涯を捧げました。彼の死後も、チベット問題は国際社会における重要な課題として、議論が続けられています。

パンチェン・ラマ10世の生涯は、チベットの歴史と文化、そして中国との複雑な関係を理解する上で、非常に重要な手がかりとなります。彼の勇気ある行動と、チベットへの深い愛情は、多くの人々に感動を与え、彼の死後も、その影響は色褪せることなく続いています。

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