化身ラマ

化身ラマ：チベット仏教における転生と継承

チベット仏教において、化身ラマ（けしんラマ）とは、仏陀、菩薩、または過去の偉大な修行者の化身としてこの世に生まれ変わったラマ（師僧）のことです。転生ラマと呼ばれることもあります。彼らは、衆生を救済し導くため、何度も輪廻転生を繰り返すと信じられています。

呼称と称号

チベット語では「トゥルク（Tulku）」と呼ばれ、サンスクリット語のアヴァターラ（化身）に相当します。また、「リンポチェ（Rinpoche）」という尊称も用いられ、これは「如意宝珠」を意味し、傑出した修行者に与えられる称号です。トゥルクの認定を受けたラマは、一般的にリンポチェと呼ばれますが、すべてのリンポチェがトゥルクであるとは限りません。中国語では「活佛」、日本語では「活仏」または「転生活仏」と訳されることが多いですが、これらの訳語の妥当性については議論があります。

化身ラマの認定と継承

化身ラマは、全ての衆生を救済するまで、何度でも転生するとされます。ラマが亡くなると、弟子たちが夢告や予言に基づき、転生者を探します。候補者とされた子供は、先代ラマの遺品を選び取るなどして前世の記憶を確認され、高位のラマによって正式に認定されます。ダライ・ラマによる追認も多いです。認定を受けた子供は僧院で教育を受け、先代ラマの後を継ぎます。

歴史と背景

歴史的には、14世紀中期に興ったカルマ・カギュ派が、最初に化身ラマによる転生継承制度を採用しました。これはカルマパの誕生に始まります。その後、ゲルク派も16世紀中期にダライ・ラマにおいて同様の制度を取り入れました。チベット仏教では本来師資相承が基本でしたが、中世には特定の氏族が権力を持つ高僧を輩出する傾向や世襲制もありました。化身ラマによる転生継承は、これらの弊害を排除し、戒律復興を促す役割を果たしたと考えられます。

各宗派と化身ラマ

転生継承制度はチベット仏教に特有ですが、生身の人間を仏陀や菩薩の化身として尊崇することは、大乗仏教において珍しいことではありません。日本仏教でも、多くの祖師が仏陀や菩薩の化身と見なされてきました。聖徳太子（如意輪観音）、親鸞（観音菩薩）、行基（文殊菩薩）、空海（不空三蔵、弥勒菩薩または如意輪観音）、法然（勢至菩薩）などが例として挙げられます。大乗仏教では、仏陀は煩悩によって再生することはないものの、慈悲によって無数の化身を示すことができるとされています。そのため、高位の化身ラマは、次の世で複数の化身となって現れることもあるとされます。

現在の主な化身ラマ

いくつかの主要な化身ラマとその尊崇される仏を紹介します。

ゲルク派

ダライ・ラマ：観音菩薩
パンチェン・ラマ：阿弥陀如来

カギュ派

カルマパ：観音菩薩
シャマル・リンポチェ：阿弥陀如来
タイシトゥ・リンポチェ：弥勒菩薩
ジャムグン・コントゥル・リンポチェ：文殊菩薩

ニンマ派

ミパム・リンポチェ：文殊菩薩
チョリン・リンポチェ：文殊菩薩

サキャ派

ジャムヤン・キェンツェ・リンポチェ：文殊菩薩

モンゴル仏教

チャンキャ・ホトクト
* ジェプツンダンバ・ホトクト

対立化身ラマ

転生による継承のため、後継者の認定をめぐる争いが起こることがあります。複数の勢力がそれぞれ候補者を擁立し、教団が分裂することもあります。ダライ・ラマ6世、パンチェン・ラマ11世、カルマパ17世などは、その例として知られています。

まとめ

化身ラマは、チベット仏教における重要な概念であり、その転生と継承は、宗教的、政治的な側面から複雑な歴史を有しています。その制度は、チベット仏教の組織構造や権力構造にも影響を与え、現在でも多くの議論や問題を引き起こしています。

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