パンノンハルマの大修道院

パンノンハルマ大修道院：ハンガリーの歴史と信仰の象徴

パンノンハルマ大修道院は、ハンガリーで最も古い歴史を持つ建造物の一つであり、パンノンハルマ市の象徴として知られています。小高い丘の上に位置し、その麓は聖マルティヌスが生まれた地と伝えられています。そのため、かつては「聖マルティヌスの丘」とも呼ばれていました。

歴史

996年、ハンガリーで最初のベネディクト会修道院として、ゲーザ大公によって創設されました。この修道院は、トゥールの聖マルティヌスに敬意を表して建てられ、ゲーザの息子であるイシュトヴァーン1世も寄進を行い、特権を与えました。初代大修道院長にはアストリクが任命されました。

現存する最古のマジャール語の記録は、1055年に遡るティハニ修道院の綱領で、この修道院の図書館に所蔵されています。当初の建物は破壊されましたが、1137年に再建されました。13世紀初頭には、初期ゴシック様式のバシリカが建設され、15世紀には国王マーチャーシュ1世のもとでゴシック様式への改築が行われました。

1541年に大修道院となり、16世紀から17世紀にかけてのオスマン帝国の侵攻時には要塞として使用されました。オスマン帝国の支配下では修道士たちは一時的に修道院を離れることを余儀なくされましたが、支配後には再建が進められました。17世紀から18世紀にはバロック様式で拡張され、現在のファサードの多くはこの時代に遡ります。1832年には古典主義様式の図書館や塔が追加され、現在の姿になりました。19世紀にはフェレンツ・シュトルノによるバシリカの大改修が行われました。

第二次世界大戦後、共産主義政権によって修道院の資産は一時的に押収されましたが、ハンガリー民主化後に返還されました。1995年には修道院設立1000周年を記念して大規模な修復が行われ、翌年には「パンノンハルマの千年の歴史をもつベネディクト会大修道院とその周辺環境」として、ユネスコ世界遺産に登録されました。

大修道院は多くの宗教関係者にも訪問されており、モスクワ総主教アレクシイ2世、教皇ヨハネ・パウロ2世、コンスタンディヌーポリ全地総主教ヴァルソロメオス1世、ダライ・ラマ14世などが訪れています。2011年には、オーストリア＝[[ハンガリー帝国]]の元皇太子オットー・フォン・ハプスブルクの心臓が埋葬されました。

主な建造物群

大修道院の主な見どころとしては、13世紀に建設されたクリプトを含むバシリカ式聖堂、回廊、36万冊の蔵書を誇る付属図書館、バロック様式の会食堂などがあります。現在も約50人の修道士が生活しており、男子寄宿学校であるパンノンハルマのベネディクト会中等学校も併設されています。

バシリカとクリプト：13世紀初頭に建てられた初期ゴシック様式のバシリカは、1224年に献堂されたとされています。バシリカ西端地下からは11世紀に遡る遺構が見つかっています。12世紀の壁は、1137年に献堂された2つ目の聖堂の名残です。聖具室での発掘調査では、古い聖堂の入り口だったと思われる門が発見されています。また、祭壇と内陣の間からは、おそらくウロス大修道院長の墓も見つかっています。15世紀にはマーチャーシュ王によって拡張され、1720年代には修復が行われました。1860年代には、フェレンツ・シュトルノによる大規模な改修が行われました。

ポルタ・スペキオサと回廊：13世紀に造られた「華麗な門」ポルタ・スペキオサは、回廊から聖堂へと繋がる主要な入り口の一つです。回廊は1472年に建設が始まり、1486年に完成しました。回廊に囲まれた中庭は「楽園」を意味するパラディスムと呼ばれ、中世にはハーブが栽培されていました。

付属図書館：1830年代に完成した付属図書館は、フェレンツ・エンゲルの設計により建設され、その後に拡張工事が行われました。オーバル・ホールの天井には、中世の大学の四学部（神学、法学、医学、学芸）の寓意画が描かれています。36万冊以上の蔵書を所蔵しており、貴重な写本も含まれています。

バロック様式の会食堂：18世紀に建てられたバロック様式の会食堂は、カルメル会修道士アタナズ・マールトン・ヴィトヴェルが設計を担当しました。壁画は、ダヴィデ・アントニオ・フォッサティによって描かれ、聖書を題材とした場面が描かれています。

一千周年の記念建造物：1896年にマジャール人入植1000年を記念して建てられた建造物は、高さ26mのドームを持ち、ハンガリーの王冠を表すレリーフがありました。現在は外殻が取り外され、未完のフレスコ画が残っています。

聖母礼拝堂：1714年に建てられた聖母礼拝堂は、1865年に修繕されました。地下室は修道士たちの埋葬場所として使用されてきました。

植物園：1840年代にファービアーン・セデルによって造られた植物園には、数百種類の樹木や低木が植えられています。

古文書室：大修道院の古文書室には、ハンガリー建国当初の数世紀に遡る貴重な資料が保管されています。聖イシュトヴァーンの時代の綱領や、現存最古のマジャール語の記録などが含まれています。

神学校：修道院には現在も神学校が併設されており、神学を学ぶ学生が在籍しています。

ワイン醸造所：ベネディクト会士が修道院を創設した996年に始まったワイン醸造は、第二次世界大戦後に一時中断されましたが、共産主義政権の終焉後に復活しました。現在では、37ヘクタールのブドウ畑で、様々な品種が栽培されています。

世界遺産

1996年、パンノンハルマ大修道院は世界遺産に登録されました。その文化的価値が認められ、「建造物群」として登録されましたが、イコモスは文化的景観としても評価できると指摘しています。

登録基準

この世界遺産は、以下の登録基準を満たして登録されています。

(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例である。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するものである。


パンノンハルマ大修道院は、ハンガリーの歴史、文化、信仰を今に伝える貴重な遺産であり、訪れる人々に深い感動を与え続けています。

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