パーセル・ルーム

パーセル・ルーム（The Purcell Room）は、ロンドン中心部のテムズ川南岸に広がる主要な文化施設群、サウスバンク・センターの一角を占める多目的ホールです。17世紀イングランドの著名な作曲家、ヘンリー・パーセルに敬意を表して名付けられました。

サウスバンク・センターを構成する主要な会場の中では最も規模が小さく、収容定員は370席です。そのコンパクトな空間を活かし、室内楽コンサートをはじめ、ジャズ、現代音楽、パントマイム、演劇、詩の朗読会など、幅広いジャンルのパフォーマンスやリサイタルに利用されています。多様な芸術表現に対応できる、親密な雰囲気の空間を提供しています。

パーセル・ルームは、より大きな規模を持つクイーン・エリザベス・ホール（Queen Elizabeth Hall, QEH）と同時期の1967年に開場しました。両ホールは同じ建物内にあり、入口ロビーを共有しています。この建物は、同時期に増設されたヘイワード・ギャラリー（The Hayward）と共に、グレーター・ロンドン・カウンシル（大ロンドン議会）の建設局長ヒューバート・ベネットが中心となり、ジャック・ホイットル、F・G・ウェスト、ジョフリー・ホースフォールといった建築家チームによって設計されました。

建築様式としては、当時のトレンドであったブルータリズム建築の特徴を色濃く持っています。構造体としてのコンクリートがむき出しにされ、機能性を重視した設計です。建物のデザインは、内部の空間構成や用途に重点が置かれ、外観の装飾性は最小限に抑えられています。そのため、外部から見てサウスバンク・センターの他の部分とパーセル・ルームの境界を明確に見分けることは容易ではありません。

建物の配置を見ると、パーセル・ルームはQEHとヘイワード・ギャラリーの間に位置し、ロンドンの主要な橋であるウォータールー橋に沿う形で建っています。ホールの北西側、特にステージの裏手はQEHのホール側面に隣接しています。ホールの観客席部分は、中央の通路の上部に片持ち梁構造で突き出すような独特の形状をしています。建物の奥側のファサードは、ヘイワード・ギャラリーの入口部分に面しています。

ホールの内部空間は、優れた音響特性を実現するために工夫されています。特に、音響共鳴器であるヘルムホルツ・リゾネーターが設置されており、アコースティックな響きを高めることに寄与しています。

QEHと共有する入口ロビーへの通路には、彫刻的な意匠が施されたコンクリートの縁（へり）があり、これは上層階の連絡通路橋の近くや、ヘイワード・ギャラリー入口の外側からも見ることができます。出演者や関係者専用の出入口は、パーセル・ルームとQEHのホールの間に位置する地上階に設けられています。

パーセル・ルームを含むこの建物は、換気設備などのインフラストラクチャを意図的に建物の外部に露出させるという、当時としては革新的な設計手法を採用した初期の例としても知られています。この発想は、後の1970年代から1980年代にかけて建設された、パリのポンピドゥー・センターやロンドンのロイズ・ビルディングといった著名な建築物でさらに発展し、広く知られることとなりました。

建物の屋根部分は、ホールの構造体とは独立して支持されており、QEHとパーセル・ルーム両方の機械設備を収容するスペースとなっています。この機械室からは、3本の大きな排気管が突き出ており、ヘイワード・ギャラリー入口近くの歩道上部や、ウォータールー橋側の屋根の北端角といった目立つ場所に配置されています。さらに、機械室からは巨大なコンクリート製のダクトが伸びており、一方は謎めいたコンクリートの塔を通り階下の入口ロビー棟へと、他方は水平方向にQEHホールへと接続されています。これらの構造要素もまた、ブルータリズム建築における機能の視覚化という思想を体現しています。

パーセル・ルームは、サウスバンク・センターの多様な文化体験を補完する、小規模ながらも重要なパフォーマンス空間として、現在も多くの芸術活動の舞台となっています。

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