ヒア・アンド・エイド

ヒア・アンド・エイド（Hear 'n Aid）

「ヒア・アンド・エイド」は、1985年にハードロックおよびヘヴィメタル界の著名なミュージシャンたちが中心となって立ち上げられた画期的なチャリティ・プロジェクトです。主な目的は、当時深刻化していたアフリカの飢餓に対し、音楽を通じて救援資金を募ることでした。

プロジェクトの発端となったのは、ディオのギタリストであるヴィヴィアン・キャンベルとベーシストのジミー・ベインが、ロサンゼルスのラジオ番組に出演した際に語ったアイデアでした。彼らは、同年に開催された大規模チャリティイベント「ライヴエイド」に触発され、ハードロックやメタルといったジャンルのアーティストたちも同様の慈善活動を展開すべきだと提唱しました。これに対し、ディオのフロントマンであるロニー・ジェイムズ・ディオがプロジェクトのまとめ役となり、多くのミュージシャンに呼びかけを行ったことで、「ヒア・アンド・エイド」は具体的に動き出しました。

このプロジェクトには、単なる慈善活動という側面だけでなく、当時の音楽シーンを取り巻く社会的な状況への応答という意図も含まれていました。特に、親の音楽リソースセンター（PMRC）のような保守的な団体からの批判に対し、ハードロックやメタルミュージシャンも社会貢献への意識を持ち、高いモラルを備えていることを示す狙いがあったと言われています。

プロジェクトの核となったのは、チャリティのために特別に制作された楽曲「スターズ (Stars)」のレコーディングです。この曲には、当時のハードロック・メタルシーンを代表する錚々たる顔ぶれが集結しました。ボーカルパートは、ロニー・ジェイムズ・ディオ自身をはじめ、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォード、ドッケンのドン・ドッケン、クイーンズライクのジェフ・テイト、クワイエット・ライオットのケヴィン・ダブロウなど、異なるバンドのトップシンガーたちがリレー形式で歌い繋ぐという構成が採用されました。ギターソロも同様に、イングヴェイ・マルムスティーン、ドッケンのジョージ・リンチ、ジャーニーのニール・ショーン、アイアン・メイデンのデイヴ・マーレイとエイドリアン・スミスといった多様なスタイルのギタリストたちが腕前を披露し、楽曲に彩りを加えています。

レコーディングには、ディオのリズム隊であるジミー・ベイン（ベース）とヴィニー・アピス（ドラムス）、キーボードのクロード・シュネルらが中心となり、多くのミュージシャンが参加しました。楽器演奏に加えて、コーラスにはさらに多様なアーティストが名を連ねています。モトリー・クルーのヴィンス・ニールとミック・マーズ、W.A.S.P.のブラッキー・ローレスとクリス・ホルムズ、テッド・ニュージェント、クワイエット・ライオットのルディ・サーゾ、ドッケンのジェフ・ピルソンやミック・ブラウンなど、普段はボーカルやギター、ベース、ドラムを担当するミュージシャンたちが、パートの垣根を越えてコーラスに協力しています。これは、このプロジェクトが単なる寄せ集めではなく、ジャンル内の強い結束と共感を象徴していたことを示しています。

「ヒア・アンド・エイド」プロジェクトは商業的にも成功を収めました。チャリティソング「スターズ」を収録したコンピレーション・アルバム『スターズ』は、この一曲に加え、アクセプト、モーターヘッド、ラッシュ、キッス、ジミ・ヘンドリックス、ディオ、Y&T、スコーピオンズといった名だたるバンドのライブ音源なども収録し、大きな話題となりました。このアルバムやシングルの売り上げは、最終的に100万ドルを超える収益を上げ、その全額がアフリカの飢餓救済のために寄付されました。プロジェクトの成功は、ハードロック・メタルシーンが持つ潜在的な影響力と、チャリティ活動への積極的な姿勢を広く知らしめる結果となりました。

関連する作品としては、アルバム『スターズ』の他に、シングルカットされた「スターズ」や、レコーディング風景などを収めた映像作品『スターズ』（旧邦題『ウイ・アー・ザ・ワールド2』）がリリースされています。これらの作品は、「ヒア・アンド・エイド」という歴史的なプロジェクトの記録として、現在も多くのファンに記憶されています。

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